ナンテン(平成29年12月号)

南天は中国原産の植物で、秋から冬に かけて赤色の丸い実をつけます。赤い 実には厄除けの効果があると信じられていたことに加えて、 ナンテンの名が「難を転じる」に通じるので、古くから縁起 の良い木とされてきました。また、家が栄える、お金持ちに なれる、悪い夢を見た時にはすぐに南天の木を見れば正夢に はならないなどの意味もあって、庭木としてとても好まれま した。風水では母屋よりも高くなる木を庭に植えるのは凶と されているため狷颪鯏召犬襪翰益がある瓩箸いζ酖靴魑 門や玄関先に植えることで、邪気の進入を拒み、病魔や厄を 追い払ってくれると云われています。昭和時代やそれ以前に 建てられた家屋では、お手洗いの外側に植わっているのを見 かけます。それは、不浄のものとされていたお手洗いを清め るためという言い伝えに加えて、南天には寄生虫や細菌等の 生育を抑える成分が含まれているからです。冷蔵庫や防腐剤 もなかった時代、生ものやお供えをしてからいただく ものなどに添えられた南天の葉。その名残りは、 会席料理、仕出し弁当、お赤飯などに今も 見られます。

 

 

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ヒシ(平成29年11月号)

ヒシは池や沼に育つ水草です。水底に沈んだ種子から水面へと茎が伸び、その先にたくさんの菱形の葉が集まり水面を覆います。その姿は水面を彩る打ち上げ花火のようです。白く小さな花が咲くのは夏。花がしぼみ、水にもぐったあとに結ばれるのがヒシの実です。名前の由来には諸説あるようで、実の形が忍者の武器である撒菱(まきびし)に似ているからとか、葉がひし形だからとか。福岡や佐賀、北海道では実をそのまま、または、茹でたり蒸したりして食べる地域がありますがヒシの実を食べる習慣は一般的ではありません。しかし、食用としての歴史は古く、万葉集にヒシを摘む様子が詠われ、江戸時代の本草(薬物)書にはくすりとなることも書かれています。ヒシの実は生薬名を菱実(リョウジツ)と言い、民間で滋養強壮、鎮痛、健胃などを目的とした使用が受け継がれています。大きなたらいの船に乗り込み、ヒシの実を摘む。ちゃぷちゃぷ、ぎぃぎぃ。そんな音が、青く澄んだ秋空に響き渡ります。

センニンソウ(平成29年10月号)

夏が終わったことを告げてくれるセンニンソウ。林や草地の日当たりの良い場所で、樹木などに蔓を絡ませた姿を見ることができます。センニンソウの名は、果実に生える綿毛を仙人の髭に見立てたもの。センニンソウの細い根は「威霊仙(イレイセン)」という生薬で、痛み止めや扁桃腺炎の症状を和らげます。民間療法として伝えられているのは、生葉を擂り潰して片方の手首の内側に貼れば扁桃腺炎が治まるという、ちょっと不思議な用い方です。「仙人」という名前の印象から、不老不死や長寿の効果が期待できる薬草だと思われがちですが、毒性があるため馬も食べないとされ、ウマクワズ(馬食わず)と呼ばれてしまうほど。人の痛みを癒す力に、毒も有するセンニンソウ。樹木に覆い被さるまでに蔓を伸ばすのは、仙人のような威霊の力を蓄えようとしているのかもしれません。

オナモミ(平成29年9月号)

オナモミは夏から秋にかけて黄緑色の花を咲かせ、その後、結ばれるのが、あのトゲトゲの実。野山に出掛け、帰宅してみたら、服にくっついていた、そんな経験をされた人もいらっしゃるのではないでしょうか。"ひっつき(くっつき)虫瓩箸盡討个譴襯ナモミの実は、表面がかぎ状のトゲで覆われているため、何かにひっかかったり、動物のからだにくっついたり。
そうして、違う場所へ運ばれることで、生育地を広げていきました。この実は生薬名を蒼耳子(そうじし)といい、頭痛や発熱などの症状に処方されるほか、搾って得られる油が皮膚病にも用いられます。日本にはアジア大陸より稲作とともに渡来した歴史の古い植物ですが、今、新たな外来種におされ、姿を消しつつあるそうで…。
新秋の風が心地よいこの季節、里山を歩いてみれば、無数のトゲに覆われたひっつき虫に出合えるかもしれません。

ベンケイソウ(平成29年8月号)

花びらの先端がほんのりと紅色のベンケイソウ。小さな花が無数に集まって咲く姿は可憐で慎ましやかですが、強そうな名前通りベンケイソウには夏の暑さ、冬の厳しい寒さにも負けない力が備わっています。

古くに中国から伝えられ、初めは「生きる草」という言葉が転じた「伊岐久佐(いきくさ)」と呼ばれていたといいます。後に、平安時代末に登場する武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)の武勇伝が伝わると、その強さになぞらえて、ベンケイソウと名付けられました。肉厚な葉は生薬名を景天(けいてん)といい、腫れ物や創傷に処方され、止血の効果も。葉はちぎった後にも、しばらくしおれず、表向きにして土の上に置いておくと、葉脈の末端から新しい芽が出るほどのたくましさ。

源義経の傍で命を燃やした弁慶のように、力強く生きるベンケイソウ。淡桃色の花は夏の暑さにうなだれることなく、今、花盛りです。

アオノリュウゼツラン(平成29年7月号)

何十年も葉を茂らせる常緑の多年草、アオノリュウゼツラン。長さ2〜3mもの剣状の葉がロゼット状(地中から放射状に葉が広がる形状)に生えるアガベ(乾燥地帯に生息する多肉植物)の仲間です。先がとがった肉厚の葉は4mもの径で広がり、縁には鋭いとげがあります。この植物を初めて見た日本人は、花は蘭のようで、龍が存在するならこんな舌をしているのではないかと思い、”青の龍舌蘭”と名付けたといいます。花が咲くのは30〜70年に一度だけ。ある日、突然、株の真ん中から花茎が10mほど伸び、次々に黄色の花を咲かせます。その花数は数千個にもなるのだとか。世紀の植物(century plant)や万年蘭、そんな別名を持つのは、花茎の長さに太さも巨大な上、開花まで50〜70年もの非常に長い歳月を要するからです。葉や茎から得られる抽出物に収れん、抗酸化、免疫力をj改善する作用があります。見事な花を咲かせたら、アオノリュウゼツランの命のおわり。しかし、枯死する寸前に根元に子株をつくり、その命はしっかり受け渡されます。

カノコソウ(平成29年6月号)

茎の上部が枝分かれして散房状に多数の花を咲かせるカノコソウ。 
少し湿った山地に生育し、花色は白や薄紅で、素朴でありながら上品さも兼ね揃えています。幕末の植物学者、飯沼慾斎(いいぬまよくさい)が著した「草木図説 / そうもくずせつ / 1856年刊行」には、「カノコソウ、名ハルオミナエシ。伊吹山中多く自生す」と記され、今でも伊吹山(滋賀県米原市)の頂から岐阜県側に下る付近に、たくさんのカノコソウを見ることができます。秋になり地上部が枯れたら生薬となる根茎、吉草根の採取の時季。掘り取った根は、ひげ根をより分け、水洗いして天日で干してから用います。ストレスや神経系の興奮を抑える効き目があります。精油を含み、特有のくせのある香りがする吉草根。μこの芳香をよい香りと感じたら、情緒が不安定になっているかもしれないのだとか…。眠れなかったり、不安に感じりした時、カノコソウが力を貸してくれそうです。

シュンギク(平成29年5月号)

似た花を咲かせるシュンギク。特徴は鼻に抜ける強い香りと食べた時の苦味。原産地はイタリアやトルコなどの地中海沿岸地方で、日本に伝わったのは15世紀の終わり頃とされています。既に江戸時代には野菜として栽培されていたことは、宮崎安貞(みやざきやすさだ) と貝原益軒(かいばらえきけん)が編纂した「農業全書」よりうかがい知ることができます。アジアでも一部の地域のみで食べられ、西洋では食材としてあまり好まれません。しかし、栄養価が高く、カルシウムは牛乳以上。豊富なミネラル類は貧血や骨粗しょう症を予防し、香り成分は自律神経に作用することで、食欲や消化吸収を促します。さらに、咳を鎮める効果もあり、喉の風邪をこじらせた時にはシュンギクの煎じ汁を飲むとよいそうです。健康維持に有効な成分がたくさん含まれているシュンギク。春から夏への移ろいを知らせてくれるあの独特の香りにも癒しの力が―。

オドリコソウ(平成29年4月号)

春の雨に誘われるように、咲き始めたオドリコソウ。山野だけでなく、道ばたにも生え、長い地下茎で広がり群落をつくります。
節に輪状に咲く花の色は白、黄、薄桃と、どの色もやわらか。下の葉ほど葉柄が長いのは、下の葉が陰にならないように上の葉が生えるからで、全ての葉に陽が当たる仕組みになっています。そして、花のかたちは、まるで花笠をかぶった踊り子のよう。その姿に由来して、オドリコソウと名付けられました。4、5月に摘み取る若芽や若葉は天ぷらや和え物、おひたしなどに、花も軽く茹でて酢の物にして食べられます。お風呂や治療に用いるためには、花が咲いた頃、全草を採取します。乾燥させたものを入浴剤とすれば痛が和らぎ、腰痛や打撲傷には全草を濃く煎じた液を湿布に用います。花笠をかぶり、輪になってあでやかに踊る娘たち。生え群れる踊り子たちの姿を見つめていると、笛や太鼓の音も聞こえてくるような―

コマツナ(平成29年3月号)

益軒によって著された本草書、「大和本草( 1 7 0 9 年・宝永7 年 刊行)」に記載されている「菘(な)」。 その本の中で、「菘」は「カブの仲間で茎が長く、葉や茎は淡緑色、根は白色でスズシロ(ダイコン)よりも味が良い」と説明されています。コマツナ(小松菜)もその一つで、大和本草には「葛西菜(カサイナ)」の名で登場します。 葛西とはコマツナを栽培していた地名で、今の東京都江戸川区辺り。 鷹狩りで近くの小松川という村を訪れていた将軍が、葛西で食べた「菘」の味に感動し、コマツナと名付けたという話が残されています。コマツナの旬は、1、2月。葉、茎、根の全てを食用にでき、鉄分やカルシウム、葉酸などを多く含み、骨を強くし、骨粗鬆症を予防する効果があるとされています。 アクが少ないので、おひたしや汁物の具、炒めものなど、さまざまな料理に。ほろ苦いその味わいは、摘み立ての春の味―。

セキショウ(平成29年2月号)

谷川のふちに群生するセキショウ。渓流の岸辺の岩に付着して生長し、見た目がショウブ(菖蒲)に似ているため狎个棒犬┐襯轡腑Ε岫瓩箸いΠ嫐で石菖(セキショウ)と名付けられました。子どもの健やかな成長、そして、家族の健康を祈願する5月の節供。根のついたショウブの葉を浸したお風呂に入ると、香りの強さが不浄を払い、邪気を遠ざけるとされています。その菖蒲湯に、古くはセキショウの葉を用いましたが、ショウブの栽培が普及した江戸時代よりショウブにとって変わられました。菖蒲湯に浸かると、足腰の冷え、筋肉痛や打ち身 などに効き、根茎は石菖(せきしょう)という生薬で、鎮静、健胃、腹痛や婦人病などに用いられます。また、抗真菌性があるため外用薬としても使われます。真っ直ぐ伸びる葉は、根本は淡紅色で、上の方は艶のある濃緑色。その葉は歳月とともに地面を覆うように茂り、広がっていきます。冬の凛とした空気の中でも、セキショウの葉は蒼く、瑞々しく。

カツオナ(平成29年1月号)

冬が旬、カツオナは福岡では誰もが知っている伝統野菜です。新しい年の豊作や健康を願って食べるお雑煮に、博多では「勝男」につながるカツオナを入れる。そんな縁起を担ぐようになったのは、江戸時代は半ば頃からです。享保・元文(1735〜1738年頃)、徳川吉宗の時代に行われた諸国の産物調査にて、福岡黒田藩がまとめた「筑前國産物帳」にも芭蕉高菜(ばしょうたかな)の名で登場しています。カツオナは高菜の仲間ですが、高菜のような辛味はなく、料理に用いると魚出汁が要らないほどの風味であることから後にカツオナ(鰹菜)に呼び名が変わったといいます。葉物野菜の中ではカルシウムがずば抜けて高く、成長期の骨の発育や骨粗しょう症を予防する効果があるとされています。カツオナを具材とした博多雑煮で新年を迎えてみれば、病や災いに狢任曽,牒1年になりそうな。

リュウノウギク(平成28年12月号)

冬支度を始めた野山に香るリュウノウギク。華やかな花ではないけれど、古くより愛しまれてきた野の花です。同じ頃に咲く野菊の中で、近づいた時に鼻の通るような清涼感、そして、葉を揉むとお線香のような香りがしたら、それがリュウノウギクです。名前は熱帯アジアに育つ龍脳樹、その樹脂と似た香りがすることに由来しています。
全草に薬効があり、花が咲いたら収穫の時。乾燥させた茎や葉を入浴に用いると、冷え性、腰痛、神経痛などが和らぎます。
平安時代に大陸より伝えられたその姿と香り。色味の少ない冬の日に、彩りと温かみを添えてくれる白い花。風に揺れるたび、ふんわり品のある香りが漂います…。

カキ(平成28年11月号)

秋の風物詩の一つ、軒先に連なる吊るし柿。カキの食用としての歴史は古く、縄文時代にまでさかのぼります。今でこそ生食できる甘柿の品種は1,000を超えますが、太古の遺跡から発掘されているのは渋柿の種。今の干し柿と同じように、天日で渋みを抜いて食べられていました。 甘柿は突然変異によるものとされており、1214年に王禅寺(おうぜんじ:神奈川県川崎市)で発見されたカキ(禅寺丸柿:ぜんじまるがき)が、日本初の甘柿だったといわれています。カキの渋みはタンニンという成分。防腐、防虫、抗菌の効果があるため、古く柿渋(未熟果を擦り潰して搾汁し、発酵させ濾過したもの)は補強材として活用されました。樽や桶に塗るのはもちろんのこと、柱や床、古竹、漁網などにも。 柿渋を塗った渋紙(しぶがみ)は、綴りの表紙や籠の補強にも使われ、ものを大事にする日本人ならではの工夫だったといえます。へたは柿蔕(してい)という生薬。煎じたものを丁子や生姜とともに飲めば、しゃっくりを止める効果があり、昔はやけどやしもやけ、傷の出血などにも柿渋を用いたそうです。甘くても渋くても、その橙色は秋空に映えて―

ヨメナ(平成28年10月号)

秋の山野を彩るキク科の花々。古来よりひっくるめて野菊(ノギク)と呼ばれますが、食べることができ、野菊の中で若芽が一番おいしいのがヨメナです。野辺に限らず、道端や畔などを柔らかな薄紫色に染めるヨメナの花。ういういしい牴任里茲Δ焚”であり、狄べられる菜”ということから嫁菜と名付けられたといいます。花咲くころのヨメナを根ごと掘り上げ、乾燥させたものを解熱や止血に用いる地方もあるそうです。万葉集では「うはぎ」の名で詠まれ、その季節は春。「春日野(かすがの)に 煙(けぶり)立つ見ゆ 娘子(をとめ)らし 春野のうはぎ摘みて煮らしも(作者不明)」。乙女たちが春野に集い、摘み取ったヨメナを煮出す。その煙がたなびく景色を眺めては、万葉人たちは春の到来を歓んだことでしょう。
霞む紫の花咲くその場所を―。 憶えていよう。遠い昔をいつくしみ、春になったらヨメナ摘みへと。

マタタビ(平成28年9月号)

むかし、歩き疲れた旅人が道ばたの木の実を食べたら疲れがとれて、また旅を続けることができたので、その木を「またたび」と名付けたという―。「猫にマタタビ、泣く子にお乳」という諺(ことわざ)で知られるマタタビは、そんな謂れのある植物です。 お茶や梅と似た白い5弁の花。 夏に咲き、かすかに香ることから夏梅とも呼ばれます。秋にドングリ型の実を結びますが、中には表面がでこぼこした、こぶ状のものも。 そんなカボチャ型の実に生長してしまうのは、開花直前に花の子房にマタタビアブラムシが卵を産み付けてしまったから。しかし、漢方薬として珍重されるのは、この狠鄂いマタタビの実瓠L敕決(もくてんりょう)という生薬で、血行促進、利尿、疲労や神経痛を和らげる効果があり、薬用酒や薬湯にも用いられます。虫が巣食わない正常なドングリ型の実に薬効はないという不思議なマタタビ。ネコに実や枝を与えると、寝転んで体をくねらせご機嫌に。ネコにとっては万病薬、そんなマタタビの力を借りれば、私たちも疲れ知らずになれるのかも?

トウモロコシ(平成28年8月号)

米や麦と並ぶ世界三大穀物のひとつ、トウモロコシ。 その起源ははっきりとは分かっていませんが、恐らくは中南米が原産地で、5千年前には栽培も始まっていたとされています。高温、乾燥、荒れた土地など悪条件でも育ちやすく、世界では7億トン超のトウモロコシが生産されています。日本での収穫時期は夏から秋にかけて。2メートルほどの茎の先端にススキの穂のような雄花、中程に葉に包まれた果実がふっくらと育ち、その頭には数えきれないほどのヒゲが溢れています。 その細くて長いヒゲの正体はめしべで、生薬名を南蛮毛(なんばんもう)といい、利尿作用によってむくみを解消してくれます。粒の一つ一つから伸びるヒゲ(絹糸:けんし)が花粉を受け取ることで、実が詰まっていく。つまりはヒゲの数だけトウモロコシの粒があるということです。 青い空の下、どこまでも広がるトウモロコシ畑を目の前にして、瞼の裏に浮かぶ幼い頃の夏の思い出。かくれんぼには格好の場所だったけど、声のする方を捜しても、なかなか見つけられなくて―。

ハス(平成28年8月号)

生薬名/薬用部:荷葉/葉 蓮鬚/おしべ 蓮実/果実 蓮肉/種子
用 途 : 強壮・利尿・解熱 など
きらきらと夏の光をたたえる水面。そこから立ち上がるようにすらりと伸びたハスの茎先にはまるく大きな葉と涼やかな花。その色は紅色、白色。朝早く開いて日暮れには閉じ、これを数日間続けると儚くはらはらと散ってしまいます。 花びらが散った後に残るのがまるで蜂の巣のような姿の花托/かたく:茎の先の花がつく部分のこと。穴のひとつひとつに詰まる実は、生薬の蓮実/れんじつ、殻をむき取り出した種子は蓮肉/れんにくで、体を元気にし、尿の出をよくする効果があります。また、大きな葉は荷葉/かようという生薬で、熱を下げるくすりに。葉や花を支える水中に伸びた地下茎が野菜のレンコン。たくさんの穴は空気や栄養を通すためのものです。 夏の夜に咲く大輪の打ち上げ花火もよいですが…。 ポンッと音を立て、水面に開くハスの大輪。早起きをして、そんな一瞬を見に行くのもよいかもしれませんね。

オトギリソウ(平成28年7月号)

夏から秋、黄色い5弁花を咲かせるオトギリソウ。茎を抱くように対生する両葉は、細長い楕円の形。 裏面から透かすと黒い小さい点が散在し、黒い点や線は花びらや萼片にもあり、まるで血が乾いた跡のよう。オトギリソウの名は、この血しぶきに見える黒点が関係しているのだと―。鷹の傷の治療にこの草を用いることは兄弟だけの秘密だったのに。
他人に漏らした弟を兄が怒りのあまり斬り殺し、弟の恋人も後を追ったという。庭で栽培していた秘薬の草に、弟の血が飛び散ったことから「弟切草」と呼ばれることに。このように悲しい逸話を持つ花ですが、鷹の傷を癒した効能は確かなもの。 全草が小連翹(しょうれんぎよう)という生薬で、切り傷の止血や洗浄、うがい薬に用いられ、鎮痛薬としても処方されます。ひっそりと咲き、夕刻にはしぼんでしまうオトギリソウ。たった一日で終える花、だからこんなにも艶やかに輝いて。

ニンニク(平成28年7月号)

薬用部/生薬名 : 鱗茎/大蒜 用 途 : 健胃・強壮
元気を出したいときに食べたくなるニンニク。その力の源はあの独特な香りの成分であるアリシン。強い殺菌作用と疲労回復効果があり、料理だけでなく、生薬・大蒜/タイサンとしてくすりとしても古くから愛用されてきました。古代エジプトではピラミッドを造る労働者たちがニンニクを食べ、重たい石を運ぶ活力としていたのだとか。また、魔物を除けると信じられ、墓に遺体とともに埋葬されたり、身を清めるために食べたりと、呪術的な使われ方もしていたようです。
これからますます暑くなり、疲れもた まりがちに。ビタミンB1と結びつくこ とでスタミナ補給に効果を発揮するの で、豚肉などとともに食べるのがおす すめ。ただし胃への刺激が強いので、 食べ過ぎには注意。そして食べた後の においにも。

シモツケ(平成28年6月号)

茎や葉が染料となるシモツケ。しもつけ(下野)とは、下野国(しもつけのくに) のことで、古く栃木県の名です。 発見されたのが下野だったことにちなみ名付けられたといいます。 シモツケの花が咲くのは梅雨入りの頃から夏の盛りまで。群がり咲く薄紅色の小さな花は甘い香りを放ち、秋には茜色に染まります。  新芽は食べることができ、古くからの伝承療法では、関節の痛み、頭痛、皮膚炎には根っこ、リウマチには 葉や花が用いられてきました。「繍線菊(しもつけ)」とも表されるのは、中国は戦国時代の繍線(しゅうせ ん)という孝行娘の話から。敵に捕らわれ牢獄につながれた父を救うため、男と偽り苦労の末に牢屋の番人 となった繍線。しかし、既に父は死して土に還り、繍線はお墓のそばに咲いていた花を摘み、故郷へと。人々はその花が咲く度、少女を思い出し、繍線と呼ぶようになったといいます。薄紅の花から伝わる強さとあたたかさ、それは少女の無償の愛。

オオバコ(平成28年6月号)

生薬名/薬用部 :車前草/全草 ・車前子/種子  用途:鎮咳・去痰・利尿
道端に立ち上がるオオバコの群れ。人や車によく踏みつけられたかたい土にもしっかり根付くことのできる逞しいオオバコは、全草を乾燥させたものを生薬・車前草/しゃぜんそう、種子を集めたものを、車前子/しゃぜんしといい、咳や痰を鎮めるくすりや利尿薬として用いられてきました。オオバコの茎は太く短く、葉には丈夫な維管束(水と養分を行きわたらせるための管)があるので、踏まれても折れたり萎れたりしにくく、そういう場所でこそ生き残りやすい植物。また、水に濡れると粘り気がでる種子は人や動物の足の裏、タイヤなどに貼りつき、遠くまで運ばれていきます。そのため、むかしの人は山で道に迷ったときには、オオバコを人の住む場所への道しるべとしたのです。 幼いころに友だちとオオバコを摘み、茎を引っかけあってどちらが先に切れるかを競った「オオバコ相撲」。そう呼んでいたけれど、 これはみんな同じかな…。

カタバミ(平成28年5月号)

長い茎の先に、ハート型の葉が3枚。その葉は陰ったり夜になったりすると閉じてしまいます。まるで、傘をたたむように。片側が食べられたように見える葉、それがカタバミ(片喰)の名の由来。5月、葉の脇から長い茎を伸ばし、先端に小さな花を咲かせます。その可憐な黄色の花は一日花でも、花の後にはたくさんの種子を実らせます。 小さな一輪のどこにそんな力を宿しているのかと感心するほどです。全草にシュウ酸を含み、生薬の名は「酢漿草(サクショウソウ)」。生葉の搾り汁が、ダニなどの寄生性の皮膚病、虫刺されによる痒みを緩和します。 また、鏡が真鍮や鉄だった時代には、シュウ酸に銅の錆(さび)を取る作用を活かし、すり潰した葉で鏡を磨いていたといいます。カタバミの葉で鏡を磨くと、想い人の姿が鏡に現れる―。そんな迷信が信じられていたといいます。種が熟せば鞘(さや)がパチンと裂け、小さな種子がはじけ飛ぶ。 広く散らばり、瞬く間に茎を伸ばし、深く根付いて。春、夏、そして秋を迎えるまで花咲くカタバミ。たとえそれが小さく、健気な輝きだとしても。

シラン(平成28年5月号)

生薬名:百きゅう  薬用部:鱗茎   用途 : 止血・排膿・やけど
山に咲く白や薄紅、黄など、さまざまな種類のランの花。すっくと立った茎に赤紫の花が6〜7輪。花の重みで茎は傾ぎ、恥ずかしげに顔を伏せているかのようにも見えるシランは、野生のランの中でも育てやすい種類で、今では庭園などで多く栽培されるようになりました。 土の中にある扁平な球形の鱗茎は、美しい花を咲かせるための栄養庫であり、「百きゅう/びゃっきゅう」と呼ばれる生薬。皮膚や粘膜の保護、止血などに古くから使われ、江戸時代の医書には「鼻血を止めるには百きゅうの粉を唾液で湿らせて塗る」や「あかぎれは百?の粉を水で練って塞ぐ」などと紹介されています。 美しさ故に山から人里へと招かれた花。毎年ひとつずつ、数珠をつなぐように増える鱗茎。その 数はシランが生きてきた時の長さで あり、痛みを癒すくすりのもと。 大地の中に眠る力であるからこそ、 人はその花に惹かれ、美しいと感じ るのかもしれません。