ヒシ(平成29年11月号)

ヒシは池や沼に育つ水草です。水底に沈んだ種子から水面へと茎が伸び、その先にたくさんの菱形の葉が集まり水面を覆います。その姿は水面を彩る打ち上げ花火のようです。白く小さな花が咲くのは夏。花がしぼみ、水にもぐったあとに結ばれるのがヒシの実です。名前の由来には諸説あるようで、実の形が忍者の武器である撒菱(まきびし)に似ているからとか、葉がひし形だからとか。福岡や佐賀、北海道では実をそのまま、または、茹でたり蒸したりして食べる地域がありますがヒシの実を食べる習慣は一般的ではありません。しかし、食用としての歴史は古く、万葉集にヒシを摘む様子が詠われ、江戸時代の本草(薬物)書にはくすりとなることも書かれています。ヒシの実は生薬名を菱実(リョウジツ)と言い、民間で滋養強壮、鎮痛、健胃などを目的とした使用が受け継がれています。大きなたらいの船に乗り込み、ヒシの実を摘む。ちゃぷちゃぷ、ぎぃぎぃ。そんな音が、青く澄んだ秋空に響き渡ります。