オトギリソウ(平成28年7月号)

夏から秋、黄色い5弁花を咲かせるオトギリソウ。茎を抱くように対生する両葉は、細長い楕円の形。 裏面から透かすと黒い小さい点が散在し、黒い点や線は花びらや萼片にもあり、まるで血が乾いた跡のよう。オトギリソウの名は、この血しぶきに見える黒点が関係しているのだと―。鷹の傷の治療にこの草を用いることは兄弟だけの秘密だったのに。
他人に漏らした弟を兄が怒りのあまり斬り殺し、弟の恋人も後を追ったという。庭で栽培していた秘薬の草に、弟の血が飛び散ったことから「弟切草」と呼ばれることに。このように悲しい逸話を持つ花ですが、鷹の傷を癒した効能は確かなもの。 全草が小連翹(しょうれんぎよう)という生薬で、切り傷の止血や洗浄、うがい薬に用いられ、鎮痛薬としても処方されます。ひっそりと咲き、夕刻にはしぼんでしまうオトギリソウ。たった一日で終える花、だからこんなにも艶やかに輝いて。

ニンニク(平成28年7月号)

薬用部/生薬名 : 鱗茎/大蒜 用 途 : 健胃・強壮
元気を出したいときに食べたくなるニンニク。その力の源はあの独特な香りの成分であるアリシン。強い殺菌作用と疲労回復効果があり、料理だけでなく、生薬・大蒜/タイサンとしてくすりとしても古くから愛用されてきました。古代エジプトではピラミッドを造る労働者たちがニンニクを食べ、重たい石を運ぶ活力としていたのだとか。また、魔物を除けると信じられ、墓に遺体とともに埋葬されたり、身を清めるために食べたりと、呪術的な使われ方もしていたようです。
これからますます暑くなり、疲れもた まりがちに。ビタミンB1と結びつくこ とでスタミナ補給に効果を発揮するの で、豚肉などとともに食べるのがおす すめ。ただし胃への刺激が強いので、 食べ過ぎには注意。そして食べた後の においにも。

シモツケ(平成28年6月号)

茎や葉が染料となるシモツケ。しもつけ(下野)とは、下野国(しもつけのくに) のことで、古く栃木県の名です。 発見されたのが下野だったことにちなみ名付けられたといいます。 シモツケの花が咲くのは梅雨入りの頃から夏の盛りまで。群がり咲く薄紅色の小さな花は甘い香りを放ち、秋には茜色に染まります。  新芽は食べることができ、古くからの伝承療法では、関節の痛み、頭痛、皮膚炎には根っこ、リウマチには 葉や花が用いられてきました。「繍線菊(しもつけ)」とも表されるのは、中国は戦国時代の繍線(しゅうせ ん)という孝行娘の話から。敵に捕らわれ牢獄につながれた父を救うため、男と偽り苦労の末に牢屋の番人 となった繍線。しかし、既に父は死して土に還り、繍線はお墓のそばに咲いていた花を摘み、故郷へと。人々はその花が咲く度、少女を思い出し、繍線と呼ぶようになったといいます。薄紅の花から伝わる強さとあたたかさ、それは少女の無償の愛。

オオバコ(平成28年6月号)

生薬名/薬用部 :車前草/全草 ・車前子/種子  用途:鎮咳・去痰・利尿
道端に立ち上がるオオバコの群れ。人や車によく踏みつけられたかたい土にもしっかり根付くことのできる逞しいオオバコは、全草を乾燥させたものを生薬・車前草/しゃぜんそう、種子を集めたものを、車前子/しゃぜんしといい、咳や痰を鎮めるくすりや利尿薬として用いられてきました。オオバコの茎は太く短く、葉には丈夫な維管束(水と養分を行きわたらせるための管)があるので、踏まれても折れたり萎れたりしにくく、そういう場所でこそ生き残りやすい植物。また、水に濡れると粘り気がでる種子は人や動物の足の裏、タイヤなどに貼りつき、遠くまで運ばれていきます。そのため、むかしの人は山で道に迷ったときには、オオバコを人の住む場所への道しるべとしたのです。 幼いころに友だちとオオバコを摘み、茎を引っかけあってどちらが先に切れるかを競った「オオバコ相撲」。そう呼んでいたけれど、 これはみんな同じかな…。

カタバミ(平成28年5月号)

長い茎の先に、ハート型の葉が3枚。その葉は陰ったり夜になったりすると閉じてしまいます。まるで、傘をたたむように。片側が食べられたように見える葉、それがカタバミ(片喰)の名の由来。5月、葉の脇から長い茎を伸ばし、先端に小さな花を咲かせます。その可憐な黄色の花は一日花でも、花の後にはたくさんの種子を実らせます。 小さな一輪のどこにそんな力を宿しているのかと感心するほどです。全草にシュウ酸を含み、生薬の名は「酢漿草(サクショウソウ)」。生葉の搾り汁が、ダニなどの寄生性の皮膚病、虫刺されによる痒みを緩和します。 また、鏡が真鍮や鉄だった時代には、シュウ酸に銅の錆(さび)を取る作用を活かし、すり潰した葉で鏡を磨いていたといいます。カタバミの葉で鏡を磨くと、想い人の姿が鏡に現れる―。そんな迷信が信じられていたといいます。種が熟せば鞘(さや)がパチンと裂け、小さな種子がはじけ飛ぶ。 広く散らばり、瞬く間に茎を伸ばし、深く根付いて。春、夏、そして秋を迎えるまで花咲くカタバミ。たとえそれが小さく、健気な輝きだとしても。

シラン(平成28年5月号)

生薬名:百きゅう  薬用部:鱗茎   用途 : 止血・排膿・やけど
山に咲く白や薄紅、黄など、さまざまな種類のランの花。すっくと立った茎に赤紫の花が6〜7輪。花の重みで茎は傾ぎ、恥ずかしげに顔を伏せているかのようにも見えるシランは、野生のランの中でも育てやすい種類で、今では庭園などで多く栽培されるようになりました。 土の中にある扁平な球形の鱗茎は、美しい花を咲かせるための栄養庫であり、「百きゅう/びゃっきゅう」と呼ばれる生薬。皮膚や粘膜の保護、止血などに古くから使われ、江戸時代の医書には「鼻血を止めるには百きゅうの粉を唾液で湿らせて塗る」や「あかぎれは百?の粉を水で練って塞ぐ」などと紹介されています。 美しさ故に山から人里へと招かれた花。毎年ひとつずつ、数珠をつなぐように増える鱗茎。その 数はシランが生きてきた時の長さで あり、痛みを癒すくすりのもと。 大地の中に眠る力であるからこそ、 人はその花に惹かれ、美しいと感じ るのかもしれません。

カタクリ(平成28年4月号)

いち早く春を告げてくれるカタクリが、美しい地上の春を知るのは8年ほどの歳月を経て。 芽吹きの時を土の中でどれほど待ち侘びていることか―。 双葉でなく、初めは一葉のみ。 やっと光を浴びることのできた片葉(一葉)は、小鹿のようなまだら模様をしています。 その姿から片鹿子(カタカゴ)と呼ぶ地域もあり、和名のカタクリ(片栗)は、食用とする鱗片(りんぺん:鱗茎に見られる多肉質な葉)が栗の実の片割れに似ていることに由来するそうです。 この鱗片を精製した粉が片栗粉で、貴重な生薬として将軍家に献上されていたといいます。 紅紫色の花弁は、陽の当たる時のみ開き、曇った日や雨の日、そして夕方には閉じてしまいます。 一茎に一輪の花。 うつむき加減の花姿は、はにかむ少女のようです。 鱗片を葛湯のようにして飲めば、胃腸の調子を整え、風邪の引き始めにも効きます。 また、片栗粉には、湿疹やあせもなどの皮膚炎を和らげる効果があります。 他の花に先駆け春を歓び、清明の頃には姿を消してしまう。 そんな陽炎のようなカタクリに、また次の春にも出合えますように…。

マンドラゴラ(平成28年4月号)

薬用部:根  生薬名:なし  用途:鎮痛・鎮静・瞳孔拡大
誰もが一度は憧れる「魔法」。その不思議な力を持っているといわれたのが、薬草の王様マンドラゴラです。マンドラゴラは東地中海沿岸生まれ。地上では深緑の大きな葉をふさふさと茂らせ、地中では大きな根が幾枝にも分岐し、ときに人の姿のように育つものも。いったい誰がこの不気味な根がくすりになると気づいたのか、マンドラゴラの根には強い毒性があるものの、鎮痛、鎮静のくすりとして用いられました。 しかしマンドラゴラには恐ろしい伝説が。抜くときに草が上げる悲鳴を聞くと狂死してしまうので、掘り出す時には耳栓をしなければならないということ。根を所有している人は富や幸せを得られるが、最後には滅ぼされてしまうということ。そしてマンドラゴラにはDevil’s apple(悪魔のリンゴ)や 恋なすび、という別名があり、眠り薬 や惚れ薬として使われたということ。 愛しい人にマンドラゴラのくすりを 飲ませたならば…その恋は成就する のでしょうか。お医者様でも治せない のが恋の病。もし伝説が本当ならば、 マンドラゴラは確かに薬草の王様と いえそうです。

ワサビ(平成28年3月号)

深い緑の山の奥、清水の湧き流れる谷間に自生するワサビ。料理の味を引き立てる辛さと香りで、日本食には欠かせない薬味の一つ です。栽培方法は大きく分けて2つ。浅瀬で栽培する「水ワサビ(沢ワサビ)」、もう一つは、普通の野菜と同じように土で育てる 「畑ワサビ(丘ワサビ)」。これらは栽培地が違うだけで、植物学上は全く同じです。  棄てるところが少なく、根茎を細かにすりおろせば刺身や寿司の香辛料に、葉や茎もおひたしや和え物、漬物に。根茎には薬効もあり、生薬名は山葵根(さんきこん)。すりおろしたものを貼りぐすりとすれば、リウマチ、神経痛に効果があります。 せせらぎの中、ゆっくりと1年を掛けて育つワビの源は、いにしえより湧く美しい水。この清らかな流れが育む山葵田(わさびだ)が、いつまでも失わ れることのないように―。

ジンチョウゲ(平成28年3月号)

生薬名:瑞香花/ずいこうか   薬用部:花  用途:鎮痛・消炎 
ツンと冷たい空気の中に混じり始めた春を告げる香り。凛として甘く、上品なその香りはジンチョウゲの花。その名は香りが「沈香/じんこう」に、花の姿がスパイスのクローブとして知られる「丁字/ちょうじ」に似ていることから、名付けられたと言い、「和漢三才図絵/わかんさんさいずえ(1713年)」では、「其香烈しく 沈香丁香/じんこうちょうこう 相兼る故に、俗に沈丁花と曰う」と紹介されています。秋に咲くキンモクセイと同じようにそれはまさに季節の香り。その芳しい花を摘みとるのは惜しいことですが、花を乾燥させ煎じればくすりに。消炎や鎮痛の効能があるので、喉が痛む時に煎液でうがいをすると良いとか。
ジンチョウゲの命は30年。それは長いのか、短いのか…。けれども、限られた命だからこそ、あんなにも美しく、芳しく咲くのかもしれません。

コーヒーノキ(平成28年2月号)

世界中の多くの人たちに愛されている飲み物、コーヒー。熱帯アフリカやマダガスカル島、マスカリン諸島に自生する常緑樹、コーヒーノキに生る果実からコーヒー豆は作られます。古くより薬理効果があるとされてきたコーヒーの種子。その臨床結果を残したのが、アラビア人の医師、ラーゼス( 8 5 0 〜 9 2 2 年)です。彼は種子(バン)を煎じた煮出し汁(カム)を「バンカム」と名付け、強心や消化促進、利尿の効果が得られるくすりとして患者に用いました。 後に、イスラム教徒の医師アヴィセンナ(980〜1037)もコーヒーに同様の効果を認め、「熱さ口当たりよさ第一級なり。人によりては興醒ましになること第一級。身体各部を強化し、皮膚を清めて湿りを取り去り、香りを生む」と記しています。昔むかし、アビシニアで「眠らない修道院」の噂が国中に広まったのだとか。
修道僧が飲んでいたのはコーヒーの実をお湯で茹でたもの。そのことを知った人々は猖睨,量擇亮足瓩噺討咫競ってコーヒーの実を求めたという話です。

ブッシュカン(平成28年2月号)

生薬名:仏手柑 薬用部:果実 用途:芳香性苦味健胃・去痰
柑橘類の多くはミカンのようなまるい形。 でもこの植物の果実は先端が5〜10本 に分かれ、その形が仏さまの手の形に似ていることから「仏手柑(ブッシュカン)」と名付けられました。皮は鮮やかな黄金色でゴツゴツ。切ると果汁が出てくるかと思いきや、皮ばかりで果肉はほとんどありません。原産地はインドで、江戸時代には日本に伝わっていたとされています。 果実を細かく切って乾燥させたものは、胃の調子を整え、痰を取り去る効果があります。
観賞用として栽培されることが多く、食べる場合は皮をジャムや砂糖漬けに。 あまり目にする機会のない、不思議な果実。その出会いは犢運”なのかもしれません。

シイタケ(平成28年1月号)

日本で確認されているだけでも 1万種はあるというキノコ。最も知られているキノコと言えばシイタケで、日本での食の文化は縄文時代にまでさかのぼります。9世紀、日本から中国へ、自生のシイタケを天日で乾燥させたものの輸出が始まります。栽培を始めた江戸時代でも日本国内での流通量は少なく、庶民では手が出せない高級食材でした。50年ほど前まで、マツタケより価格が高く、食べることが出来たのは正月や盆などの“ハレの日”だったといいます。シイタケには血液中のコレステロールをきれいに掃除する成分が含まれており、動脈硬化、高血圧、心筋梗塞、糖尿病などを予防し、骨粗しょう症や老化の防止にも。その昔、中国人たちが珍重したのは日本産のシイタケ。不老長寿のくすりへと生まれ変わらせたのは、日本の風土と太陽の力―。

シクラメン(平成28年1月号)

薬用部:球茎  用途:下剤 ※ 毒性があり、現在は生薬として 使われていない
冬から早春にかけて、赤や白、ピンク、紫などの花を咲かせた鉢植えで目にすることの多いシクラメンはヨーロッパ生まれの園芸品種。原種の球茎は下剤としたり、澱粉を取るためにつかわれていましたが18世紀ごろから改良が重ねられ、明治時代に観賞用として日本に輸入されました。 葉はハートの形。その間からのびた茎の先には、蝶が羽をたたんで休んでいるような形の花。よく見れば花は恥じらうようにうつむいているのに、花びらは上へと反り返っています。これはめしべが雨に濡れないようにするため、花粉が雨で流されるのを防ぐため。雨季のある国で生まれたシクラメンならではの形です。 花の姿からつけられた名前には、カカリビバナ、というものも。 草木は冬枯れ、空は灰色。 色とりどりに咲くシクラメンは冬を照らすかがり火。その灯火は冬の寒さを忘れさせ、心を温めてくれるようです。

スギ(平成27年12月号)

日本固有の植物で、北海道を除いた全国で見ることができるスギ。古来より神の宿る尊い樹とされ、千年の命を保つといわれています。屋久島の縄文スギは有名で、天然記念物となっている古木も少なくありません。
秋になると、軒先に60cmもの大きな緑の玉を吊るしている造り酒屋を見かけます。杉の葉を束ねて球形にしたもので、呼び名は杉玉(すぎたま)、酒林(さかばやし)とも。 杉玉が軒先に吊るされたら、新酒の搾りが始まったという合図。蒼々としていた玉は、移ろう季節と共に枯れて行きます。すっかり茶色に変われば、それは新酒が熟成した時。酒神をお祀りしている大神神社のスギのご利益に(スギの薬効:殺菌・防腐)あやかって、酒が腐敗しないように吊るすようになったという杉玉。
スギの効き目はそれだけでなく、幹や葉、種子には、痛み止めや消炎の効果も。3千、4千年以上も気の遠くなるほど長い年月、そこに根を張り、時を見続けているスギの樹の下で。瞼を閉じて、しばし時を重ねてみれば、心癒されてー。

ダイコン(平成27年12月号)

生薬名:ライフクシ 薬用部:多肉根・葉・種子
用途:発熱・咳止め・喉の痛み・二日酔い・打ち身
春に薄紫色を帯びた白い花を咲かせるダイコン。太く育った根は冬に旬を迎える大根、芽がカイワレ大根、葉が大根葉、すべてを食用とすることができます。そして種子が漢方で用いられる生薬「ライフクシ」で、健胃や痰切り、咳止めなどの効果があります。また、大根は消化酵素やビタミンCを豊富に含むので、すりおろしたものを二日酔いや消化不良、かぜの発熱に用いたり、のどの痛みにハチミツ漬け、冷え性や打ち身に干した葉の薬湯を用いるなどの民間療法が伝わっています。 おいしいだけでなく、さまざまな体の不調をよくしてくれるダイコン。一年の終わりが近づき、いつもより飲みすぎ、食べ過ぎてしまういまの季節には大根おろしが効くのかも。春の七草にも「スズシロ」の名で登場し、お正月で疲れたお腹をやさしく癒してくれるでしょう。

チガヤ(平成27年11月号)

サトウキビと近い種であるチガヤ。 比較的温暖な地域の野原や荒地、あぜ道などで見かけることができます。 チガヤには厄よけの効果がある、 そう古来より信じられています。 罪や穢れを払うため、チガヤやススキなどで編んだ 「茅の輪(ちのわ)くぐり」をするのは、6月の夏越の祓(なごしのはらえ)と12月の年越の祓(としこしのはらえ)。 季節が大きく変わるそれらの月に、無病息災を願います。 「千茅(ちがや)」の名の 「千」 と 「茅」は、群れて生育する茅の意味。 ヒゲ根を取り除いた根茎の生薬名を茅根(ぼうこん)と言い、利尿、消炎、止 血薬に。 万葉集に登場する、ツバナ(茅花)と呼ばれるチガヤの花穂。 甘味があるそれを食用にしていた様子が詠まれています。 江戸時代には、子どものおやつにもされていたと。 今では、茅で屋根を葺くことも殆どなくなりましたが、秋、紅葉したチガヤの草原の美しいこと。草花たちが眠りにつく冬も枯れることなく、風吹けば、乾いた葉音が響く…。

ダリア(平成27年11月号)

薬用部:塊根 用 途:栄養補給剤
フランス皇帝ナポレオンの妻、ジョゼフィーヌに愛された花、ダリア。秋の景色の中に咲く姿は、赤、桃、黄、橙、紫…かたちも一重、八重、珠のようなものとさまざまです。 生まれはアステカ帝国(現在のメキシコ)。堂々と美しい姿から神聖な花とされ、メキシコの国花となりました。スペインの植物学者アンドレアス・ダールによってヨーロッパへ伝えられ、やがて世界へと。花の名は彼の名前に由来し、「ダリア」と名付けられたといいます。 ずっしり太いサツマイモのようなかたちの根は、栄養補給剤などのくすりに。また、根はもちろん、花、葉は食用にも。 美しい花を咲かせるという一仕事を終えたダリアの根。たっぷりの栄養を蓄えて、ふかふかの落ち葉の下、暫しの眠りにつくようです。

アキノキリンソウ(平成27年10月号)

空には薄雲が広がり、そよぐ草葉。とりどりの秋草が野辺に姿を見せる頃、余り知られず、林道などにひっそりと咲くアキノキリンソウ。しかし、山の斜面を覆う、群れ咲くこの花と出合えたら、息を呑む美しさだと言います。花の黄色は艶があり、とても鮮やかで―。 秋に花咲き、キリンソウに似ているので「秋の麒麟草」。でも、「泡立草(あわだちそう)」という別名で呼んでいる人が多いのかも しれません。 茎の先にたくさんの花が穂のように咲き、冬を迎える前に綿毛へと。その様子が酒造りの時に出る泡にたとえられ、アワダチソウと呼ばれてきたそうです。 根ごと採取した全草が生薬、一枝黄花(いっしおうか)。風邪による頭痛、腫れものなどの症状に処方されます。 煎じたものでうがいをすれば、のどの痛みや腫れを和らげることも。 山が化粧を始める頃、登山道の脇で出迎えてくれる黄金色の花。冬がそこまで来ている、そう感じさせてくれる強さを秘めた美しいアキノキリンソウ。

ナツメ(平成27年10月号)

生薬名:大棗/タイソウ 薬用部:果実 用 途:鎮静・強壮・利尿など
細い枝にたわわに実ったナツメの実。 口に含めば、リンゴのようなシャリっとした食感に、ほんのりとした甘みと酸味。花が咲くのは春も終わり。星形で黄緑色の花は、夏にみどりの実を結び、秋に赤褐色に色づきます。大きさは親指の先ほどのものからウズラのタマゴくらいまで。それを蒸してから乾燥させたものが「大棗/タイソウ」という生薬で、強壮や利尿、子どもの夜泣きなどに効果があります。また中国には「ナツメの実を1日に3つ食べると老いない」という言葉もあり、老化防止の果実としても知られています。さらに、ナツメの葉をよく噛んでから砂糖をなめると、甘みを感じなくなる、というおもしろい作用も。深まる秋に色づく実り。今日はあの木の実が食べ頃、なんて―。耳を澄ましてみれば、そんな声が聞こえてきそう。

カボチャ(平成27年9月号)

カボチャの種類を大まかに分けると、日本カボチャ・西洋カボチャ・ペポカボチャの3種。歴史はとても古く、ペルーでは紀元前4千〜3千年の出土品から種が見つかっています。カボチャの名前は、カンボジアの産物として日本へ伝えられたことに由来するそうです。 国名にちなんで爛ンボジアの瓜瓩噺討个譴討い燭里、いつしか、カボチャへと。 戦国時代、九州にもたらされたのが始まりとされています。長期保存がきくため、輸入食品が入ってくるまでは、冬の貴重な食物でした。
現在、一般的に流通しているのは西洋カボチャ。 1960年代頃までは日本カボチャが食卓の主流でしたが、食生活の欧米化や嗜好の変化によって、西洋カボチャの需要が急増しました。種子の生薬名が「南瓜子(ナンカシ)」。 産後のむくみや糖尿病の改善などに用いられ、粘膜や皮膚を強くし、風邪を予防する効果も。「冬至にカボチャを食べると風邪を引かない」ということわざは、先人たちが未来の者たちへ語り継いだ大切な知恵であり、深い思いやりなのでしょう。

オミナエシ(平成27年9月号)

生薬名:敗醤根/ハイショウコン 敗醤草/ハイショウクサ
薬用部:根・全草    用途:消炎・鎮静など 
暑さの残る毎日ですが、暦の上では秋。その気配を伝えてくれるのが秋の七草の萩、葛、撫子、藤袴に桔梗、そして女郎花/オミナエシ。オミナエシは草丈1mほど、黄色い小さな花をたくさん咲かせます。女性が食べていた粟飯に黄色い花が似ているので、「オミナ=女」「エシ=飯」がなまって「女郎花」と名付けられたとか。
美しい花ですが全草と根からは鼻をつまみたくなるような何とも言えない匂いがします。この部分は敗醤草・敗醤根という生薬で、消炎や鎮痛の効果があります。 よく似た姿で、少し大きめの白い花が咲くのは「男郎花/オトコエシ」。
吹く風にゆらゆら。ふたつの花は、仲睦まじく寄り添って花を咲かせることでしょう。

アカザ(平成27年8月号)

七福神(しちふくじん)の神で、頭が長く白髪で、杖を握りしめている寿老人(じゅうろじん)。種々の病を治し、冨や長寿を授けてくれるという寿老人は、老子(ろうし) の化身とも言われています。 団扇(うちわ) と巻物を付けた杖を突き、中国における彼は、黒い鹿を連れているそうです。 彼の長い命を記録した巻物と1500年も生きているという鹿が、延命を授けてくれるのだとか。
彼の象徴でもあるごつごつした杖は 「アカザの杖」で、アカザは日本のどこにでも自生しています。背丈が伸び、太くなった茎をしっかり乾燥させれば、立派な杖に。 しかし、今では杖として用いられることは少なく、繁殖する前に摘み取られてしまうのだと…。
若葉は美しい赤紫色。 それが健胃、強壮、歯痛などの効果がある生薬、藜葉(れいよう)で生葉の汁は虫刺されに効きます。
「アカザの杖」 一振りで、寿命が延びるのであれば。そんな想いもあって、松尾芭蕉や水戸藩の徳川光圀公は愛用していたのかも知れません。いつまでも、どこまでも歩めますようにと…。

ミョウガ(平成27年8月号)

生薬名:ジョウカ 薬用部:花穂・根茎・茎葉・若芽 用途:消化促進 神経痛 生理不順
「魏志倭人伝」にも記されているミョウガ。食用としているのは地下茎からのびた花穂で、花が咲く前が食べごろです。独特の香りには食欲増進、消化促進効果、血行をよくして発汗を促す効果があり、食用だけでなく薬用にも用いられます。ただ、「ミョウガを食べると物忘れをする」という噂も…。これは釈迦の弟子、周梨槃特/すりはんどくの逸話によるもの。修行を重ねたにも関わらず自分の名前だけは覚えられず、名札をかけてもそれさえ忘れてしまう彼。その彼の墓のそばに生えたことから「茗荷/みょうが」と名付けられたのだとか。
ミョウガの鼻に抜けるすっきりとした香りは眠気を覚まし、頭をすっきりさせてくれます。もし周梨槃特がミョウガを食べていたならば、名前を忘れることはなかったのかもしれません。