ジギタリス(平成29年4月号)

生薬名:ジギタリス  薬用部:葉  用 途:強心、利尿 など

 

ひとと同じくらいの草丈、穂状に咲いた鈴型の花。その色は白、桃、紫色で、花びらの内側には斑点模様がびっしり。堂々として、遠くからでも目につくジギタリスは、美しいけれど奇妙。咲いていればつい足を止めてしまいます。しかも、その全草には毒があり、誤って口にすれば激しい中毒症状に。 しかし古く西洋では、ジギタリスの乾燥させた葉をくすりにしていました。その効果は強心・利尿。心臓の病気に処方され、その薬効から「魔女の秘薬」と呼ばれるほど。 とはいえ、現在、日本ではジギタリスの葉を使うこ とはなく、ジギタリスに含まれる成分(ジギトキシン) だけが医薬品として使われています。 毒もくすりも正しく使ってこそ「くすり」。 使い手が経験と知識を積み重ね、正しい使い方を見 極めたからこそ、ジギタリスは美しい薬草となった のです。 

コマツナ(平成29年3月号)

益軒によって著された本草書、「大和本草( 1 7 0 9 年・宝永7 年 刊行)」に記載されている「菘(な)」。 その本の中で、「菘」は「カブの仲間で茎が長く、葉や茎は淡緑色、根は白色でスズシロ(ダイコン)よりも味が良い」と説明されています。コマツナ(小松菜)もその一つで、大和本草には「葛西菜(カサイナ)」の名で登場します。 葛西とはコマツナを栽培していた地名で、今の東京都江戸川区辺り。 鷹狩りで近くの小松川という村を訪れていた将軍が、葛西で食べた「菘」の味に感動し、コマツナと名付けたという話が残されています。コマツナの旬は、1、2月。葉、茎、根の全てを食用にでき、鉄分やカルシウム、葉酸などを多く含み、骨を強くし、骨粗鬆症を予防する効果があるとされています。 アクが少ないので、おひたしや汁物の具、炒めものなど、さまざまな料理に。ほろ苦いその味わいは、摘み立ての春の味―。

ニオイテンジクアオイ(平成29年3月号)

生薬名:香葉/コウヨウ  薬用部:全草 用 途:リウマチ・腹痛

凍える寒さも去り、暖かさに包まれる3月は、旅立ちの季節でもあります。友や恩師との別れはとても悲しく、寂しいことですが、前を向いていくために贈りたい一本の花。 友との「真の友情」、恩師への「尊敬」。この2つの花言葉を併せ持つニオイテンジクアオイ(ゼラニウム)。赤やピンクの小さな花が集まって咲き、腺毛に覆われた葉は赤ちゃんの掌のような形。ミントのさわやかさと甘いバラの花を思わせる香りで、落ち込んだ気持ちを和らげ、明るく高める効果があります。人にとっては心地よい香りですが、虫たちは苦手。そのため古くから虫よけとして家の周りに植えられてきました。また、香りのもとである精油は肌に塗ると、肌の引き締めや皮膚炎にもよいのだとか。 悲しみに沈む心を慰めるニオイテンジクアオイの 香り。それは悲しみ乗り越えようとする人たちの 背中を押してくれる、見えない力、なのです。

セキショウ(平成29年2月号)

谷川のふちに群生するセキショウ。渓流の岸辺の岩に付着して生長し、見た目がショウブ(菖蒲)に似ているため狎个棒犬┐襯轡腑Ε岫瓩箸いΠ嫐で石菖(セキショウ)と名付けられました。子どもの健やかな成長、そして、家族の健康を祈願する5月の節供。根のついたショウブの葉を浸したお風呂に入ると、香りの強さが不浄を払い、邪気を遠ざけるとされています。その菖蒲湯に、古くはセキショウの葉を用いましたが、ショウブの栽培が普及した江戸時代よりショウブにとって変わられました。菖蒲湯に浸かると、足腰の冷え、筋肉痛や打ち身 などに効き、根茎は石菖(せきしょう)という生薬で、鎮静、健胃、腹痛や婦人病などに用いられます。また、抗真菌性があるため外用薬としても使われます。真っ直ぐ伸びる葉は、根本は淡紅色で、上の方は艶のある濃緑色。その葉は歳月とともに地面を覆うように茂り、広がっていきます。冬の凛とした空気の中でも、セキショウの葉は蒼く、瑞々しく。

ヒイラギナンテン(平成29年2月号)

生薬名:なし 薬用部:葉・種・根 用途:解熱・強壮 など
冷たい北風が吹き続く2月。そんな寒空の下、コツコツと春の準備をする植物たち。そんな春のまだ早いころに花を咲かせているのがヒイラギナンテンです。ヒイラギのように刺のある葉は夏には青く、冬には赤く。冬から春にかけて黄色い花を咲かせ、初夏には青色の実をナンテンのように房をなして実らせます。日本ではあまり使われませんが、葉や種には解熱、強壮などの薬効があり、生薬として使っている国もあるようです。古くから日本では、ナンテンは「難を転ずる」という語呂合わせから、ヒイラギは葉の棘を鬼が嫌がることから、共に魔除けとして玄関や鬼門に植えられてきました。その両方の名を持つヒイラギナンテンは、もしかすると最強の魔除けの木なのかもしれません。

カツオナ(平成29年1月号)

冬が旬、カツオナは福岡では誰もが知っている伝統野菜です。新しい年の豊作や健康を願って食べるお雑煮に、博多では「勝男」につながるカツオナを入れる。そんな縁起を担ぐようになったのは、江戸時代は半ば頃からです。享保・元文(1735〜1738年頃)、徳川吉宗の時代に行われた諸国の産物調査にて、福岡黒田藩がまとめた「筑前國産物帳」にも芭蕉高菜(ばしょうたかな)の名で登場しています。カツオナは高菜の仲間ですが、高菜のような辛味はなく、料理に用いると魚出汁が要らないほどの風味であることから後にカツオナ(鰹菜)に呼び名が変わったといいます。葉物野菜の中ではカルシウムがずば抜けて高く、成長期の骨の発育や骨粗しょう症を予防する効果があるとされています。カツオナを具材とした博多雑煮で新年を迎えてみれば、病や災いに狢任曽,牒1年になりそうな。

セイヨウサクラソウ(平成29年1月号)

薬用部:花・根 用途:不眠症・鎮静・去痰・鎮咳・関節炎など
凍える季節に色鮮やかに咲くサクラソウ科の 「プリムラ」。園芸用として多くの品種があり、 草丈も5〜20僉花の色も赤や黄、青、ピン クに紫とさまざま。その中でも花色が黄色で、 サクラソウに似ているのが「セイヨウサクラソウ」、別名「キバナノクリンザクラ」です。 この花に含まれる精油は香りを嗅ぐだけで神経の緊張や不眠症に効果があるとされ、ハーブティは頭痛薬として用いられます。根は咳や痰によく効くので百日咳や気管支炎のくすりに。また、根からコリや痛みに効くあの白い貼り薬のような香りがするのは、サリチル酸塩が含まれているから。この成分は消炎・鎮痛に効果があるので、ヨーロッパでは古くから「関節炎の根」と呼ばれ、関節炎の治療に利用されてきました。
植物を知る上で、香りも大切な要素。花の 形や葉の形、姿が似ている植物だけでな く、香りが似ているものを探してみるのも楽しいかも。

リュウノウギク(平成28年12月号)

冬支度を始めた野山に香るリュウノウギク。華やかな花ではないけれど、古くより愛しまれてきた野の花です。同じ頃に咲く野菊の中で、近づいた時に鼻の通るような清涼感、そして、葉を揉むとお線香のような香りがしたら、それがリュウノウギクです。名前は熱帯アジアに育つ龍脳樹、その樹脂と似た香りがすることに由来しています。
全草に薬効があり、花が咲いたら収穫の時。乾燥させた茎や葉を入浴に用いると、冷え性、腰痛、神経痛などが和らぎます。
平安時代に大陸より伝えられたその姿と香り。色味の少ない冬の日に、彩りと温かみを添えてくれる白い花。風に揺れるたび、ふんわり品のある香りが漂います…。

レモン(平成28年12月号)

生薬名/枸櫞皮くえんひ  薬用部/成熟果実の果皮  用途/殺菌・芳香性健胃など
レモンの酸っぱくさわやかな香り。あの香りだけで口の中にはじゅわっと唾液があふれてくるような。実際に口に含めば口だけでなく、目までぎゅっとつぶってしまうほどの酸っぱさです。インドで生まれたレモンは12世紀ごろにヨーロッパに伝わり、15世紀にはあたたかな地中海沿岸の一帯で栽培されるようになりました。そして大航海時代にビタミンCが不足することで起こる壊血病の予防のため、レモンやライムが船に積み込まれ、世界中に広がりました。 ビタミンCは壊血病だけでなく、かぜなど感染症の予防、殺菌の効果があります。コップにレモンの絞り汁とハチミツを入れて、お湯を注いだらビタミンCたっぷり、ハチミツレモンのできあがり。気温の低下、空気の乾燥。かぜが流行るこの季節に1杯いかがですか?

カキ(平成28年11月号)

秋の風物詩の一つ、軒先に連なる吊るし柿。カキの食用としての歴史は古く、縄文時代にまでさかのぼります。今でこそ生食できる甘柿の品種は1,000を超えますが、太古の遺跡から発掘されているのは渋柿の種。今の干し柿と同じように、天日で渋みを抜いて食べられていました。 甘柿は突然変異によるものとされており、1214年に王禅寺(おうぜんじ:神奈川県川崎市)で発見されたカキ(禅寺丸柿:ぜんじまるがき)が、日本初の甘柿だったといわれています。カキの渋みはタンニンという成分。防腐、防虫、抗菌の効果があるため、古く柿渋(未熟果を擦り潰して搾汁し、発酵させ濾過したもの)は補強材として活用されました。樽や桶に塗るのはもちろんのこと、柱や床、古竹、漁網などにも。 柿渋を塗った渋紙(しぶがみ)は、綴りの表紙や籠の補強にも使われ、ものを大事にする日本人ならではの工夫だったといえます。へたは柿蔕(してい)という生薬。煎じたものを丁子や生姜とともに飲めば、しゃっくりを止める効果があり、昔はやけどやしもやけ、傷の出血などにも柿渋を用いたそうです。甘くても渋くても、その橙色は秋空に映えて―

ヤーコン(平成28年11月号)

薬用部/生薬名 : 葉・塊根/なし  用途 : 整腸 など
腸の機能を整えたり、腸内の善玉菌を増やしたりと、お腹の健康に効果が高いフラクトオリゴ糖。この栄養素を豊富に含むヤーコンは、南米アンデス原産の、キク科の根菜類。日本には昭和後期に伝わったまだ新しい野菜です。草丈は2メートルほどに成長し、秋にヒマワリに似た黄色い花を咲かせます。そして冬が始まる頃に地中の塊根を採取したものが私たちが知っているヤーコンです。 サツマイモのような形で、食感は梨に似ています。食物繊維が豊富なので便秘症の方にお勧め。葉の部分も血糖値やコレステロール値を抑えるダイエット茶として人気です。 旬は冬ですが、殆どが加工されるため店頭に並ぶことはめったにありません。もし見つけることができた なら、味わってみてはいかがでしょう。

ヨメナ(平成28年10月号)

秋の山野を彩るキク科の花々。古来よりひっくるめて野菊(ノギク)と呼ばれますが、食べることができ、野菊の中で若芽が一番おいしいのがヨメナです。野辺に限らず、道端や畔などを柔らかな薄紫色に染めるヨメナの花。ういういしい牴任里茲Δ焚”であり、狄べられる菜”ということから嫁菜と名付けられたといいます。花咲くころのヨメナを根ごと掘り上げ、乾燥させたものを解熱や止血に用いる地方もあるそうです。万葉集では「うはぎ」の名で詠まれ、その季節は春。「春日野(かすがの)に 煙(けぶり)立つ見ゆ 娘子(をとめ)らし 春野のうはぎ摘みて煮らしも(作者不明)」。乙女たちが春野に集い、摘み取ったヨメナを煮出す。その煙がたなびく景色を眺めては、万葉人たちは春の到来を歓んだことでしょう。
霞む紫の花咲くその場所を―。 憶えていよう。遠い昔をいつくしみ、春になったらヨメナ摘みへと。

オケラ(平成28年10月号)

生薬名/薬用部 : 白朮/根茎 用途 : 健胃・整腸・利尿 など
口にすれば眉間に深いしわ。千回振り出してもまだ苦いことから「センブリ」と名付けられたこの草は、夏から秋にかけ、紫色の線の入った白い花を咲かせます。 花、葉、秋に白い小花を咲かせ、根に独特の香りがあるオケラ。この香りを新年の訪れを告げる風物詩としているのが、京都の人たちです。京都の八坂神社で大晦日から元日にかけて行われる神事「白朮/をけら祭り」。この日、神社ではオケラの根を燃やして火が焚かれ、参拝者はその火を火縄に移し家へ持ち帰ります。そしてこの火で炊いた雑煮で、新年を祝い、家族の健康を願う…。 オケラの根は生薬名を「白朮/ビャクジュツ」といい、お腹の調子を整える効果があり、古くからさまざまに用いられてきました。新年に無病息災を願う薬酒、お屠蘇。白朮はその主薬のひとつでもあります。 授かった「をけら火」を消さぬよう、火縄をく るくると振り回しながら家路を急ぐ人々。そ の後ろにはオケラの香りが続きます。京都の 人は街を満たすこの香りに、年が明けたこと を実感するのかも。今年もあと3ヶ月。オケ ラの香りがだんだんと近付いてきています。

マタタビ(平成28年9月号)

むかし、歩き疲れた旅人が道ばたの木の実を食べたら疲れがとれて、また旅を続けることができたので、その木を「またたび」と名付けたという―。「猫にマタタビ、泣く子にお乳」という諺(ことわざ)で知られるマタタビは、そんな謂れのある植物です。 お茶や梅と似た白い5弁の花。 夏に咲き、かすかに香ることから夏梅とも呼ばれます。秋にドングリ型の実を結びますが、中には表面がでこぼこした、こぶ状のものも。 そんなカボチャ型の実に生長してしまうのは、開花直前に花の子房にマタタビアブラムシが卵を産み付けてしまったから。しかし、漢方薬として珍重されるのは、この狠鄂いマタタビの実瓠L敕決(もくてんりょう)という生薬で、血行促進、利尿、疲労や神経痛を和らげる効果があり、薬用酒や薬湯にも用いられます。虫が巣食わない正常なドングリ型の実に薬効はないという不思議なマタタビ。ネコに実や枝を与えると、寝転んで体をくねらせご機嫌に。ネコにとっては万病薬、そんなマタタビの力を借りれば、私たちも疲れ知らずになれるのかも?

センブリ(平成28年9月号)

生薬名 /薬用部: 当薬/ 全草 
用 途 : 消化不良、食欲不振 など
口にすれば眉間に深いしわ。千回振り出してもまだ苦いことから「センブリ」と名付けられたこの草は、夏から秋にかけ、紫色の線の入った白い花を咲かせます。 花、葉、茎、根、どの部分もくすりとして使うことができ、生薬名は「当薬/とうやく」。食欲不振、消化不良など、胃の調子を調えるくすりです。しかし、古くセンブリは「虫を除ける」くすり。古い書物には、センブリで染めた肌着は蚤や虱を避けることができ、煎じ汁を糊に混ぜて屏風を貼ると虫がわかないと記されています。 「良薬は口に苦し」とはよく言っ たもの。虫さえ嫌うセンブリの苦 み。しかし確かな効き目があるか らこそ、民間薬として長く用いら れているのです。

トウモロコシ(平成28年8月号)

米や麦と並ぶ世界三大穀物のひとつ、トウモロコシ。 その起源ははっきりとは分かっていませんが、恐らくは中南米が原産地で、5千年前には栽培も始まっていたとされています。高温、乾燥、荒れた土地など悪条件でも育ちやすく、世界では7億トン超のトウモロコシが生産されています。日本での収穫時期は夏から秋にかけて。2メートルほどの茎の先端にススキの穂のような雄花、中程に葉に包まれた果実がふっくらと育ち、その頭には数えきれないほどのヒゲが溢れています。 その細くて長いヒゲの正体はめしべで、生薬名を南蛮毛(なんばんもう)といい、利尿作用によってむくみを解消してくれます。粒の一つ一つから伸びるヒゲ(絹糸:けんし)が花粉を受け取ることで、実が詰まっていく。つまりはヒゲの数だけトウモロコシの粒があるということです。 青い空の下、どこまでも広がるトウモロコシ畑を目の前にして、瞼の裏に浮かぶ幼い頃の夏の思い出。かくれんぼには格好の場所だったけど、声のする方を捜しても、なかなか見つけられなくて―。

ハス(平成28年8月号)

生薬名/薬用部:荷葉/葉 蓮鬚/おしべ 蓮実/果実 蓮肉/種子
用 途 : 強壮・利尿・解熱 など
きらきらと夏の光をたたえる水面。そこから立ち上がるようにすらりと伸びたハスの茎先にはまるく大きな葉と涼やかな花。その色は紅色、白色。朝早く開いて日暮れには閉じ、これを数日間続けると儚くはらはらと散ってしまいます。 花びらが散った後に残るのがまるで蜂の巣のような姿の花托/かたく:茎の先の花がつく部分のこと。穴のひとつひとつに詰まる実は、生薬の蓮実/れんじつ、殻をむき取り出した種子は蓮肉/れんにくで、体を元気にし、尿の出をよくする効果があります。また、大きな葉は荷葉/かようという生薬で、熱を下げるくすりに。葉や花を支える水中に伸びた地下茎が野菜のレンコン。たくさんの穴は空気や栄養を通すためのものです。 夏の夜に咲く大輪の打ち上げ花火もよいですが…。 ポンッと音を立て、水面に開くハスの大輪。早起きをして、そんな一瞬を見に行くのもよいかもしれませんね。

オトギリソウ(平成28年7月号)

夏から秋、黄色い5弁花を咲かせるオトギリソウ。茎を抱くように対生する両葉は、細長い楕円の形。 裏面から透かすと黒い小さい点が散在し、黒い点や線は花びらや萼片にもあり、まるで血が乾いた跡のよう。オトギリソウの名は、この血しぶきに見える黒点が関係しているのだと―。鷹の傷の治療にこの草を用いることは兄弟だけの秘密だったのに。
他人に漏らした弟を兄が怒りのあまり斬り殺し、弟の恋人も後を追ったという。庭で栽培していた秘薬の草に、弟の血が飛び散ったことから「弟切草」と呼ばれることに。このように悲しい逸話を持つ花ですが、鷹の傷を癒した効能は確かなもの。 全草が小連翹(しょうれんぎよう)という生薬で、切り傷の止血や洗浄、うがい薬に用いられ、鎮痛薬としても処方されます。ひっそりと咲き、夕刻にはしぼんでしまうオトギリソウ。たった一日で終える花、だからこんなにも艶やかに輝いて。

ニンニク(平成28年7月号)

薬用部/生薬名 : 鱗茎/大蒜 用 途 : 健胃・強壮
元気を出したいときに食べたくなるニンニク。その力の源はあの独特な香りの成分であるアリシン。強い殺菌作用と疲労回復効果があり、料理だけでなく、生薬・大蒜/タイサンとしてくすりとしても古くから愛用されてきました。古代エジプトではピラミッドを造る労働者たちがニンニクを食べ、重たい石を運ぶ活力としていたのだとか。また、魔物を除けると信じられ、墓に遺体とともに埋葬されたり、身を清めるために食べたりと、呪術的な使われ方もしていたようです。
これからますます暑くなり、疲れもた まりがちに。ビタミンB1と結びつくこ とでスタミナ補給に効果を発揮するの で、豚肉などとともに食べるのがおす すめ。ただし胃への刺激が強いので、 食べ過ぎには注意。そして食べた後の においにも。

シモツケ(平成28年6月号)

茎や葉が染料となるシモツケ。しもつけ(下野)とは、下野国(しもつけのくに) のことで、古く栃木県の名です。 発見されたのが下野だったことにちなみ名付けられたといいます。 シモツケの花が咲くのは梅雨入りの頃から夏の盛りまで。群がり咲く薄紅色の小さな花は甘い香りを放ち、秋には茜色に染まります。  新芽は食べることができ、古くからの伝承療法では、関節の痛み、頭痛、皮膚炎には根っこ、リウマチには 葉や花が用いられてきました。「繍線菊(しもつけ)」とも表されるのは、中国は戦国時代の繍線(しゅうせ ん)という孝行娘の話から。敵に捕らわれ牢獄につながれた父を救うため、男と偽り苦労の末に牢屋の番人 となった繍線。しかし、既に父は死して土に還り、繍線はお墓のそばに咲いていた花を摘み、故郷へと。人々はその花が咲く度、少女を思い出し、繍線と呼ぶようになったといいます。薄紅の花から伝わる強さとあたたかさ、それは少女の無償の愛。

オオバコ(平成28年6月号)

生薬名/薬用部 :車前草/全草 ・車前子/種子  用途:鎮咳・去痰・利尿
道端に立ち上がるオオバコの群れ。人や車によく踏みつけられたかたい土にもしっかり根付くことのできる逞しいオオバコは、全草を乾燥させたものを生薬・車前草/しゃぜんそう、種子を集めたものを、車前子/しゃぜんしといい、咳や痰を鎮めるくすりや利尿薬として用いられてきました。オオバコの茎は太く短く、葉には丈夫な維管束(水と養分を行きわたらせるための管)があるので、踏まれても折れたり萎れたりしにくく、そういう場所でこそ生き残りやすい植物。また、水に濡れると粘り気がでる種子は人や動物の足の裏、タイヤなどに貼りつき、遠くまで運ばれていきます。そのため、むかしの人は山で道に迷ったときには、オオバコを人の住む場所への道しるべとしたのです。 幼いころに友だちとオオバコを摘み、茎を引っかけあってどちらが先に切れるかを競った「オオバコ相撲」。そう呼んでいたけれど、 これはみんな同じかな…。

カタバミ(平成28年5月号)

長い茎の先に、ハート型の葉が3枚。その葉は陰ったり夜になったりすると閉じてしまいます。まるで、傘をたたむように。片側が食べられたように見える葉、それがカタバミ(片喰)の名の由来。5月、葉の脇から長い茎を伸ばし、先端に小さな花を咲かせます。その可憐な黄色の花は一日花でも、花の後にはたくさんの種子を実らせます。 小さな一輪のどこにそんな力を宿しているのかと感心するほどです。全草にシュウ酸を含み、生薬の名は「酢漿草(サクショウソウ)」。生葉の搾り汁が、ダニなどの寄生性の皮膚病、虫刺されによる痒みを緩和します。 また、鏡が真鍮や鉄だった時代には、シュウ酸に銅の錆(さび)を取る作用を活かし、すり潰した葉で鏡を磨いていたといいます。カタバミの葉で鏡を磨くと、想い人の姿が鏡に現れる―。そんな迷信が信じられていたといいます。種が熟せば鞘(さや)がパチンと裂け、小さな種子がはじけ飛ぶ。 広く散らばり、瞬く間に茎を伸ばし、深く根付いて。春、夏、そして秋を迎えるまで花咲くカタバミ。たとえそれが小さく、健気な輝きだとしても。

シラン(平成28年5月号)

生薬名:百きゅう  薬用部:鱗茎   用途 : 止血・排膿・やけど
山に咲く白や薄紅、黄など、さまざまな種類のランの花。すっくと立った茎に赤紫の花が6〜7輪。花の重みで茎は傾ぎ、恥ずかしげに顔を伏せているかのようにも見えるシランは、野生のランの中でも育てやすい種類で、今では庭園などで多く栽培されるようになりました。 土の中にある扁平な球形の鱗茎は、美しい花を咲かせるための栄養庫であり、「百きゅう/びゃっきゅう」と呼ばれる生薬。皮膚や粘膜の保護、止血などに古くから使われ、江戸時代の医書には「鼻血を止めるには百きゅうの粉を唾液で湿らせて塗る」や「あかぎれは百?の粉を水で練って塞ぐ」などと紹介されています。 美しさ故に山から人里へと招かれた花。毎年ひとつずつ、数珠をつなぐように増える鱗茎。その 数はシランが生きてきた時の長さで あり、痛みを癒すくすりのもと。 大地の中に眠る力であるからこそ、 人はその花に惹かれ、美しいと感じ るのかもしれません。

カタクリ(平成28年4月号)

いち早く春を告げてくれるカタクリが、美しい地上の春を知るのは8年ほどの歳月を経て。 芽吹きの時を土の中でどれほど待ち侘びていることか―。 双葉でなく、初めは一葉のみ。 やっと光を浴びることのできた片葉(一葉)は、小鹿のようなまだら模様をしています。 その姿から片鹿子(カタカゴ)と呼ぶ地域もあり、和名のカタクリ(片栗)は、食用とする鱗片(りんぺん:鱗茎に見られる多肉質な葉)が栗の実の片割れに似ていることに由来するそうです。 この鱗片を精製した粉が片栗粉で、貴重な生薬として将軍家に献上されていたといいます。 紅紫色の花弁は、陽の当たる時のみ開き、曇った日や雨の日、そして夕方には閉じてしまいます。 一茎に一輪の花。 うつむき加減の花姿は、はにかむ少女のようです。 鱗片を葛湯のようにして飲めば、胃腸の調子を整え、風邪の引き始めにも効きます。 また、片栗粉には、湿疹やあせもなどの皮膚炎を和らげる効果があります。 他の花に先駆け春を歓び、清明の頃には姿を消してしまう。 そんな陽炎のようなカタクリに、また次の春にも出合えますように…。