ガジュツ(平成27年4月号)

ショウガ科の多年草でウコンの仲間のガジュツ。後漢から三国時代(220年頃)に記された中国最古の薬物書「神農本草経」においては"上薬:生命を育むもの、長期間飲んで健康を保つもの"に位置付けられています。
一見するとウコンによく似ていますが、違いは根茎に。ウコンの根茎は黄色で、ガジュツはうっすら紫色。その根茎に含まれる三大成分、アズレン、シネオール、カンファー。これらの成分によって、肝機能の改善、健胃、鎮痛や抗炎症などを高めることが。
現在、国内の産地は鹿児島や沖縄、そして種子島、屋久島。諸気を癒してくれる…どこかそんな神秘を感じます。
※諸気:腎気、胃気、宗気(そうき)、衛気(えき)、営気(えいき)など、体をめぐるすべての気のこと

ヤグルマギク(平成27年4月号)

生薬名:矢車菊/シンシャキク  薬用部:花弁 
用途:抗炎症・収斂・利尿・強壮・去痰
4月、暖かな風の吹く先で咲く白、赤、ピンク、 青のヤグルマギク。その名は細い茎の上に丸 く咲いた花が、鯉のぼりの棹の上でくるくる と回る矢車の形に似ていたことから名づけられました。そしてその花びらは薬用にも、食用にも。炎症を抑える効果や傷や粘膜を引き締め保護する収斂効果があり、傷薬や化粧品などに利用されます。 長い長いこの花の歴史。エジプトのツタンカーメン王の棺に納められていた花束。ナポレオンから逃れた幼き皇子たちの心を慰めたヤグルマギクの花冠。その花に与えられた勇気はやがてナポレオンを打ち破り、この花は現在のドイツ国花に。
長い歴史の彼方で風に揺れていたヤグルマギク。可憐な姿は今も昔も変わらないまま―。

タイム(平成27年3月号)

ヨーロッパでは4千年以上も昔からくすりや香料として用いられてきたというタイム。中世ヨーロッパでは「勇気・活動・行動力」の象徴とされ、男らしさを表すものでもありました。数あるハーブの中でも重宝されるのは、殺菌、防腐、抗ウイルスの効果に優れているから。それゆえに、古代エジプトではミイラの防腐や保存剤として用いられ、冷蔵庫が無い時代にはタイムを加えて料理をすることで、保存効果を高めていたと言います。
今でもその活用方法は変わらず、肉や魚の保存剤とされる他、風邪や気管支からの感染症を予防する薬草として使われます。
タイムのお茶でも飲んで、くつろぎのひと時を。妖精たちが集まるというタイム畑のやさしい香りに包まれて…。

アセビ(平成27年3月号)

生薬名:馬酔木/バスイボク 薬用部:茎葉
薬効: ウシ・ウマの皮膚寄生虫駆除、農業用殺虫
寒かった冬もまもなく終わり。花々はつぼみ をほころばせ、まさにこれから春本番。そん な中、白や薄ピンクの花を咲かせるのがア セビ。小さな釣鐘状の花は房をなし、樹を覆いつくすほど。こんなに可愛らしいのに、この木の葉・枝・花には「アセボトキシン」という毒が含まれています。漢字で「馬酔木/あせび」と書くのは馬が誤って食べると神経が麻痺し、酔ったようになるから。もとは「足癈/あしじひ」と呼ばれていましたが、次第に「あしび」「あせび」へと変わったのこと。 しかし毒とくすりは紙一重。葉を煎じたものはウシやウマの寄生虫駆除、または農業用の殺虫剤などに利用されています。 アセビが咲いて、モモやサクラと花の便りが。変わりやすい春のお天気。せめてこの晴天がもう少し続きますように。

アーモンド(平成27年2月号)

古代文明が栄えたナイル、チグリス・ ユーフラテスなどの流域で、既に5千年以上前には食されていたアーモンド。 
ほのかな苦みと甘みが混じり、噛めば軽やかな歯触り。桜と同じころに咲くのは、白や薄紅色の花。 夏へと移る頃、楕円形の実を結び、その殻果(こくか:果皮が乾燥して硬く、種子と密着していない果実)は秋にかけて割れて、中に硬い種子が。これが仁(にん・じん)と呼ばれるアーモンドです。甘い味の甘扁桃(かんへんとう) と苦味の強い苦扁桃(くへんとう) の2種類があり、そのどちらもくすりとして用いられます。甘扁桃から採れる油分は咳や痰に効き、下剤の効果も。また、食物繊維も豊富で、細胞の老化を抑え、動脈硬化を予防する働きもあります。 苦扁桃を蒸留して得られる苦扁桃水は、咳止めに。
日本にやってくるほとんどのアーモンドは、カリフォルニア育ち。 かりりと噛んだ一粒は、遥か異国の 太陽の味 ―。

ネコヤナギ(平成27年2月号)

生薬名:細柱柳  薬用部:樹皮・葉 薬効:解熱・鎮痛・消炎・利尿など
冷たい風にさざめく水面。そのほとりに ひょろりたたずみ、春まだ遠いころ、葉よ りも先に花穂を結ぶネコヤナギ。その花 は滑らかな絹の糸、銀白色のネコのしっぽに似ています。 このネコヤナギなどのヤナギ科植物の樹皮に含まれているサリシン。その効き目は古くから知られており、枝を削って楊枝にし、歯の痛みを和らげるために噛んでいたとか。解熱、鎮痛に効果のある”アスピリン”はこのサリシンから発見されたもの。また、コリヤナギという種類の枝で編んだかごは風通しがよく、湿気やカビを防ぐので「柳行李」の材料に。
花が咲くのはほんのひと時。 でも、“ヤナギ”のくすりは いつも、いつでも…。

サザンカ(平成27年1月号)

落ち葉を掃き集めては、たき火をするのがごく普通だったのは、懐かしくもあたたかな昭和時代のこと。 そして、たき火の向こうにはサザンカが。それが日常の風景であったからこそ、童謡にも歌われているサザンカ。凍てつく寒さの中、凛と咲く美しさ。自生のサザンカの花は白く、花びらは一重。その美しさから園芸品種が多く作られ、花の色は白に桃、紅、斑が入ったものも。花びらも一重だけでなく、八重咲きもあり、数百もの種類があるのだとか。種子から油を採取することができ、ツバキ油として軟膏の材料などに用いられます。
爐燭火だ、たき火だ瓩函楽しげな子どもたちが描かれた歌。北風は冷たく、手の霜焼けは痛むけど、みんなで仲良く輪になって。ゆらゆら揺らぐ橙色の炎の向こうに、真っ赤なサザンカ。ぱちぱちという音を聴きながら身体を温め合えば、心までぽかぽかと…。

ポンカン(平成27年1月号)

生薬名/薬用部: 青皮/未熟果皮・陳皮/成熟果皮   用途:芳香性健胃 鎮咳 去痰
寒い日が続く今、ちょうど食べごろを迎えているかんきつ類。その中でも特に甘みが強いのがポンカン。インド原産、明治時代に日本に伝わってきたこの果実。「ポン」はインド西部の「Poona」という地名、「カン」は柑橘の「柑」から名づけられました。 濃い橙色の皮は厚みの割に柔らかでむきやすいのが特徴。これは生薬、陳皮/チンピ。胃や腸を刺激して消化を助けたり、溜まったガスを出す働きや、咳や痰にも効果があります。また、熟す前の青い実の皮も青皮/セイヒとして、同様の効果があります。
こたつの上のカゴの中には橙色の果実が山盛り。たっぷり含まれるビタミンCは風邪の予防にも効果あり。 今年の冬はミカンだけでなく、ポンカン、伊予かん、八朔といろいろなかんきつ類を味わってみては。

グアバ(平成26年12月号)

熱帯の国に育つグアバ。日本で栽培されているのは沖縄ぐらいなので、まだ珍しい果実と言えそうです。そ の姿は品種によってさまざまで、丸や卵形、洋梨形なども。
魅力の一つは、甘くて爽やかな香り。漢方では、若葉を日干しにしたものは蕃石榴葉(ばんせきりょうよう)、果実を乾燥させたものが蕃果(ばんか)と呼ばれます。カリウムが豊富な蕃石榴葉は、糖尿病、コレステロール、高血圧、動脈硬化などに。ビタミンCを多く含む蕃果には、風邪の予防や肌の美しさを保つ効果があるとされています。
真っ白なグァバの花。花が終わると一本の枝にいくつもの実を結び、大きくなるに連れて、枝は垂れ下がり ます。その重みが、誰かの病いを癒すのだとすれば。優しく摘み取ってもらえたら…。

ジャノヒゲ(平成26年12月号)

薬用部:根の膨大部  生薬名:麦門冬  用途:鎮咳・去痰 
葉を失い、枝だけになった木はさみしげな冬支度。凍えるような 姿のまま、暖かな春をじっと待ち続けます。しかしジャノヒゲは別。 冬でも枯れることはありません。 その名は細長い葉の姿から。夏に白く小さな鐘型の花を咲かせ、 冬には光沢のある青色の実を結びます。その表面を剥ぎ取ると 現れる白い球。それを地面にたたきつければ、ぽぉんと数mも弾 むため、昔の子供たちはこれをおもちゃにしたのだとか。 根のところどころにはまるでヘビが獲物を飲み込んだときのよ うなふくらみ。これを乾燥させたものが生薬、麦門冬(ばくもんと う)で咳や痰の症状に効きます。 あわただしく、かぜをひく間も惜しい12月。まずは体調管理をし っかりと。それでもかぜをひいたなら、麦門冬の出番かも。

コナラ(平成26年11月号)

昭和も半ば頃までは、人びとの暮らしと密接に結びついていた雑木林(ぞうきばやし)。中でもコナラ林からは、焚き木や炭などにするための木材を伐採し、肥料などに使うために落ち葉も集められていました.ところが、燃料は電気やガス、化石燃料(石炭・石油・天然ガス)に頼るようになったことで、コナラ林の伐採がなくなってしまうことに。薪を日用としていた頃は、樹皮や葉が止血や下痢止めの民間薬であったとか。
葉が夕焼け色に染まる秋だけは、ドングリを目当てに小さな訪問者たちがやってきます。澄み切る秋空に映える、雄大で美しいコナラ。里山の代表樹として景観を作っていたに違いありません。ドングリを拾い集めに来る子どもたちを今年も待っているはずで…。

ツワブキ(平成26年11月)

生薬名:たく吾(タクゴ) 薬用部:茎・根茎 用途:健胃・下痢・食中毒など
朝晩が冷え込むほどに色づく木々。枝は赤や橙の葉をまとい、 おめかしをしているよう。そして足元を見れば、葉を茂らせたツ ワブキ。葉の間から長く伸びた茎の先には菊のような黄色い花 が咲いています。つやつやと光沢のある葉が蕗に似ていて艶 があるから「艶蕗/つやぶき」。それが転じて、「ツワブキ」になっ たとか。 葉や根茎は「たく吾(タクゴ)」という生薬。健胃や下痢など、お腹 の調子を整えてくれる効果があります。皮膚炎や打撲には生の 葉をあぶったものをなど、暮らしの中に息づく使い方も。 多くの草木が眠り始める初冬。黄色く咲いたツワブキの花は、そ んなさみしい風景にぽつりと灯った、暖かな光のようです。

センダン(平成26年10月号)

センダンは温暖な海岸に野生する落葉性の高木で、各地に生育しています。花は初夏。淡紫色、もしくは白色の花をたくさん咲かせます。秋には実を結び、枝一面にいくつもの楕円形の実が垂れ下がります。落葉後も実だけは枝に残り、まるで数珠のようであることから「センダマ(千珠)」と呼ばれたことが名前の由来なのだとか。果実が黄色に熟せば、腹痛などに効く生薬として用いることができ、その名は苦楝子(くれんし)。また、樹皮を苦楝皮(くれんぴ)といい、条虫(じょうちゅう)を駆除する虫下しとして処方されます。種子は鳥によって運ばれるのでしょう。四国・九州・南西諸島・本州でも温暖な河原や雑木林などに、ごく普通に見られます。黄褐色となって、残り枝に数珠成りに下がるその姿を見ていると、わが身をついばみに来る鳥たちを待っているかのようで。木枯らしが吹く前に、遠く暖かな場所へ運んでおくれと…。

サンショウ(平成26年10月号)

生薬名/薬用部:山椒/果実   用途:芳香性健胃、整腸、利尿
ピリリと舌が痺れる辛さと、鼻を抜ける爽やかな香り。鰻の蒲 焼にかけたり、七味唐辛子の“七味”のひとつとしたり、薬味 としておなじみの山椒。これは秋に熟したサンショウの実から 種子を取り去り、果皮を粉末にしたもので、「粉山椒」とも呼ば れます。初夏の熟す前の青い実は「実山椒」、「青山椒」といい、佃 煮にして味わうことができます。とくにちりめんじゃこと炊い たちりめん山椒はごはんとも相性抜群。また、「粉山椒」には、健 胃整腸、利尿、虫下しの効果もあるので、くすりとして用いられ ています。さらに、ゆっくり時間をかけて成長するサンショウの 幹は、年輪の幅が狭く、硬いことからすりこ木としての利用も。 食欲の秋。ついつい食べ過ぎてしまったならば、粉山椒を一振 り。その香りが気分を鎮め、胃腸の働きも促してくれるはず。

クレソン(平成26年9月号)

ヨーロッパ原産のクレソン。肉料理の付け合せなどに良いことから、料理用ハーブとして馴染みある人も多いのではないでしょうか。日本に渡来したのは、明治3〜4年頃。独特な香りと、舌にピリっと刺す味。オランダからやってきた水を好む野菜という意味で、オランダガラシやミズガラシの名で呼ばれていたと言います。洋食の普及によって全国へと広がると、ハーブの仲間、クレソンの名で知られていくことに。古来、ヨーロッパや中国では咳止め、滋養強壮、血液の酸化防止などの薬とされてきました。辛味にしても、ワサビと同じシニグリンという成分で、食欲増進、胃もたれ解消の効果があります。また、肉のタンパク質や脂肪の消化を高める働きもあるため、ステーキやローストビーフなどの付け合わせに用いられるのも、理にかなっているのです。清らかな水の流れが育む、クレソン。つやつやと輝いている緑の葉が、夏の疲れをそっと癒してくれそうな…。

ナタマメ(平成26年9月号)

薬用部/生薬名 種子/刀豆トウズ  果殻/刀豆殻トウズカク
用途:体力回復・咳・腰痛・蓄膿症・歯周病
長さ3、40僂砲發覆訛腓なさやに、3僂曚匹梁腓な豆つぶ。 さやの形が“鉈(なた)”に似ている「ナタマメ」はアジア、アフ リカの熱帯地方原産で江戸時代に日本に伝わりました。 ぐんぐん伸びるツルは、大きな実りを結び終えるともとのとこ ろに戻ってくるのだとか。そのため、“必ず帰ってくる”お守りと して旅人に贈られ、戦地に赴く兵士は懐に忍ばせたといいます。 また絶え間なく花が咲き続けることから、商売繁盛や子孫繁栄 の縁起物としても扱われました。もちろんくすりとしても。病後 の体力回復や咳、腰痛などに用いられるほか、ナタマメの持つ 排膿抗炎症作用は蓄膿症や歯周病にも効果的。さらには食用 として、若いさやを福神漬けの材料に。 様々な場所で活躍するナタマメ。さやや実があんなに大きい のは、たくさんの人の思いがたくさん詰まっているからかも。

ネムノキ(平成26年8月号)

汗ばむ季節になると、日没前に現れるネムノキの花。糸のように伸びた部分は無数のおしべで、小さな花が10〜20個集まり、一つの花に見えます。 化粧をする際に使う刷毛の先に、紅がついたような、ふわふわした美しい薄紅色の花。夕刻になると葉は垂れ下がり、向かい合う葉と葉が寄り添 うように閉じ、その時を待っていたかのように開く花―。夜明けとともに、また、葉が開き、花はしぼんで眠りへと…。葉の表面の水分が、蒸散 することを調整するため眠ることのできるネムノキ。くすりとして用いられるのは、夏から秋に採取する樹皮や葉。合歓皮(ごうかんひ)という 生薬名で、利尿、強壮、鎮痛、精神の安定などの効果があり、腫れ物や水虫の症状を抑える効き目も。
いつもより少し早起きした朝に、桃の果実のような甘い香りがふわりと鼻をかすめたら、それはネムノキの香り。大きく枝葉を広げたネムノキに 抱かれたなら、いつしか淡い夢の中へ。

ヘチマ(平成26年8月号)

生薬名:糸瓜/シカ・ヘチマ水  薬用部:果実・茎汁
用途:鎮咳・利尿・化粧水(美肌効果)
夏休みに入り、子どもたちの声にあふれていた小学校はとても 静か。そんな小学校の片隅にできた涼しげなみどりの木陰。 ツルをの ばし、葉を広げ、黄色の花を咲かせるその植物は、春に種をまいたヘ チマ。なじみ深いのは皮と果肉を除いて作ったたわしや、茎か ら採れるヘチマ水。ヘチマの繊維はかたく、お風呂で使 えば初め こそ痛いものの馴染んでくると肌に心地よい刺激を与え、体 をきれいにしてくれます。また、ヘチマ水は肌を引き締め、 調子を整える 化粧水として古くから用いられてきました。じつはくすりとしても利用で き、生の果実を煮たものは咳や痰、 むくみなどに効果があります。 夏休みも今月いっぱい。夏休み明けの子どもたちは大きく育ったヘチ マの実を見て驚くこ とでしょう。でも彼らもまた、夏の間に身も心も成 長しているはずです。中へ。

ギンバイカ(平成26年7月号)

初めて出合ったとしたら、その美しさに言葉を奪われてしまいそうなギンバイカ。上向きに開く5枚の花びら、その中心から伸びる糸のように細いおしべ。 その数、ひとつの花に200本はあるといいます。蕾の開き始めは真っ白な梅に似て、無数のおしべが広がって行くことで際立つ美しさ。光るような白は、 人の目には銀色に映り、「銀梅花(ギンバイカ)」と名付けられたと。
艶のある暗緑色の葉に殺菌作用があり、アロマセラピーにも用いられ、乾燥させたものはスパイスとしても。香りは少し甘みがかった青っぽさ、ユーカ リに似てなくもありません。
純白が銀色に喩えられるその花は、純潔の象徴として結婚式でも使われます。ブーケを手にチャペルの扉を開ければ、きっと幸せになれると…。 微かに甘い香りのする白い花の名は、ギンバイカ。

キンカン(平成26年7月号)

生薬名:金橘(キンキツ)  薬用部:果実  用途:風邪・咳止め・健胃・疲労回復
太陽はますます輝き、額には玉の汗。夏もそろそろ本番で、 次々と咲いたかんきつ類の花が終わりに近づくころ、 ようやく花 を咲かせ始めるキンカン。涼やかな白い花は夏の間咲き続け、や がて結ばれる実は冬の訪れとともに 黄金色に熟します。
これが生 薬、金橘/きんきつで、咳や痰、のどの痛みやかぜの症状などに古 くから用いられて きました。まるで小さなミカンのようなその実は、 果皮が甘く、果肉は酸っぱく。だから皮も丸ごと食べるか、 砂糖漬 けや甘露煮にするのがお勧め。
凍える冬の台所で湯気を立てていたキンカンの甘露煮。喉の痛み にきくの だと小さなころはくすりよりもお世話になりました。 口にじゅわっと広がる甘くて酸っぱくてほろ苦いあの味。 それは夏 の太陽の味。ぴかぴかの黄金色。これは夏の太陽の色、ですよね。

スイカズラ(平成26年6月号)

つる植物のスイカズラ。やや湿り気のある場所に生育し、一年を通して美しい緑を楽しませてくれます。春から夏へと移ろう頃、白い花を咲かせます。最初は清らかな白、やがてふんわりした黄色へと。漢字で「吸い蔓」と書くのは、古くは花を口にくわえて蜜を吸っていたことに因みます。砂糖の無い頃の日本では、代用されていました。水をよく吸う蔓(かずら:つる草の総称)の意で名付けられたとも言われ、由来には諸説あるようです。
冬が来ても葉を少しだけ残して堪え忍ぶことから、別の名を忍冬(ニンドウ)と。それは茎葉の生薬の名でもあり、効果は抗菌と解熱。蕾は生薬名を金銀花(キンギンカ)といい、解熱や抗菌に加えて、消炎・解毒作用もあります。
遥か飛鳥の時代より神々へ捧げる植物とされてきたスイカズラ。国のまほろば、三輪山の神々の心を鎮めるため、いにしえ人たちが始めたのは花鎮祭(はなしずめのまつり)、一名「くすり祭」とも呼ばれます。祈りを託し捧げたのは忍冬と百合根(ユリの根)。どうかいついつまでも、たたなづく青垣となって私たちを守ってくれますように。

ヤマモモ(平成26年6月号)

生薬名:楊梅皮、楊梅  薬用部:樹皮、果実  用途:下痢止め・解毒など 
昨日も、今日も、明日も雨。でも雨の続くこの時期に色づき始めるヤマモモの実。まん丸で真っ赤。表面には小さなツブツブがあり、まるで砂糖をまとったキャンディのよう。かじれば口の中に広がる甘酸っぱい果汁はこの時期にしか味わえない初夏の味です。
また、楊梅(ようばい)という名の生薬として、健胃、整腸効果があり、下痢止めや解毒薬に用いられます。お酒に浸ければ、滋養強壮、高血圧に効く薬酒に。また、木の皮も楊梅皮(ようばいひ)にも同様の効果が。
雨の続く6月。傘を傾け、ヤマモモの木を仰げばたくさんの実り。摘み取ればそれはすぐに傷んでしまいます。だからこそ、雨粒に濡れたとしてもあの赤い果実が欲しくなってしまうのかも。

オウレン(平成26年5月号)

春の初め、山地の木陰に息吹くオウレン。早春に根茎から芽を出し、10センチほどの茎の先端に小さな白い花を咲かせます。生薬とするのは根茎で、薬効を持つオウレンは、セリバオウレン、キクバオウレン、コセリオウレンの3種です。黄色い根に連なるひげ根、だからオウレン。種をまいて収穫するまでに、少なくとも5〜6年は要するようです。薬用の歴史は古く、遡ること平安時代。927年に編纂された法令集「延喜式(えんぎしき)」にその名に見ることができ、近江、信濃、越前、加賀、能登、佐渡、丹波の諸国より朝廷にオウレンが献上されたことを記されています。粉末や煎じたものが処方され、強い苦みは黄色物質のベルベリン。もたらされる効果は、健胃、整腸、消炎、止血、精神安定など。
手の指ほどの長さの先に咲く、オウレンの花。早い春、森に足を踏み入れたなら、どうか足元に気を付けて。落ち葉の中から可憐な白い花が、届くはずもない美しい空を仰いで――。

オオアザミ(平成26年5月号)

生薬名:オオアザミ実  薬用部:果実   用途:胆石症、黄疸など 
葉の上に描かれた白い斑模様。それはオオアザミの鋭いトゲに触れた娘がこぼした、聖母マリアに捧げるはずのミルクが描き出したもの。 そんな言い伝えから別名マリアアザミとも呼ばれるオオアザミは、夏の近づくこの時季から咲き始めます。
2メートルにもた圧する茎の頭には、鋭いトゲをまとう紫色の花。葉の先も鋭く尖り、まるで触れることを拒むかのよう。しかしその種子は肝臓、脾臓の病に効果があるとされ、ヨーロッパでは胆石症や黄疸などの治療に古くから用いられていました。
また、全草に葉食欲増進、消化促進作用があり、柔らかな若芽はサラダなどにして食用とすることもできます。
聖母マリアがその身に宿した子は人々の救いとなりました。マリアアザミの種子もまた、病に苦しむ人の希望―。花が実りを結び、柔らかな綿毛に変われば、苦しみもふわりと飛んで消えていくのです。