クレソン(平成26年9月号)

ヨーロッパ原産のクレソン。肉料理の付け合せなどに良いことから、料理用ハーブとして馴染みある人も多いのではないでしょうか。日本に渡来したのは、明治3〜4年頃。独特な香りと、舌にピリっと刺す味。オランダからやってきた水を好む野菜という意味で、オランダガラシやミズガラシの名で呼ばれていたと言います。洋食の普及によって全国へと広がると、ハーブの仲間、クレソンの名で知られていくことに。古来、ヨーロッパや中国では咳止め、滋養強壮、血液の酸化防止などの薬とされてきました。辛味にしても、ワサビと同じシニグリンという成分で、食欲増進、胃もたれ解消の効果があります。また、肉のタンパク質や脂肪の消化を高める働きもあるため、ステーキやローストビーフなどの付け合わせに用いられるのも、理にかなっているのです。清らかな水の流れが育む、クレソン。つやつやと輝いている緑の葉が、夏の疲れをそっと癒してくれそうな…。

ナタマメ(平成26年9月号)

薬用部/生薬名 種子/刀豆トウズ  果殻/刀豆殻トウズカク
用途:体力回復・咳・腰痛・蓄膿症・歯周病
長さ3、40僂砲發覆訛腓なさやに、3僂曚匹梁腓な豆つぶ。 さやの形が“鉈(なた)”に似ている「ナタマメ」はアジア、アフ リカの熱帯地方原産で江戸時代に日本に伝わりました。 ぐんぐん伸びるツルは、大きな実りを結び終えるともとのとこ ろに戻ってくるのだとか。そのため、“必ず帰ってくる”お守りと して旅人に贈られ、戦地に赴く兵士は懐に忍ばせたといいます。 また絶え間なく花が咲き続けることから、商売繁盛や子孫繁栄 の縁起物としても扱われました。もちろんくすりとしても。病後 の体力回復や咳、腰痛などに用いられるほか、ナタマメの持つ 排膿抗炎症作用は蓄膿症や歯周病にも効果的。さらには食用 として、若いさやを福神漬けの材料に。 様々な場所で活躍するナタマメ。さやや実があんなに大きい のは、たくさんの人の思いがたくさん詰まっているからかも。

ネムノキ(平成26年8月号)

汗ばむ季節になると、日没前に現れるネムノキの花。糸のように伸びた部分は無数のおしべで、小さな花が10〜20個集まり、一つの花に見えます。 化粧をする際に使う刷毛の先に、紅がついたような、ふわふわした美しい薄紅色の花。夕刻になると葉は垂れ下がり、向かい合う葉と葉が寄り添 うように閉じ、その時を待っていたかのように開く花―。夜明けとともに、また、葉が開き、花はしぼんで眠りへと…。葉の表面の水分が、蒸散 することを調整するため眠ることのできるネムノキ。くすりとして用いられるのは、夏から秋に採取する樹皮や葉。合歓皮(ごうかんひ)という 生薬名で、利尿、強壮、鎮痛、精神の安定などの効果があり、腫れ物や水虫の症状を抑える効き目も。
いつもより少し早起きした朝に、桃の果実のような甘い香りがふわりと鼻をかすめたら、それはネムノキの香り。大きく枝葉を広げたネムノキに 抱かれたなら、いつしか淡い夢の中へ。

ヘチマ(平成26年8月号)

生薬名:糸瓜/シカ・ヘチマ水  薬用部:果実・茎汁
用途:鎮咳・利尿・化粧水(美肌効果)
夏休みに入り、子どもたちの声にあふれていた小学校はとても 静か。そんな小学校の片隅にできた涼しげなみどりの木陰。 ツルをの ばし、葉を広げ、黄色の花を咲かせるその植物は、春に種をまいたヘ チマ。なじみ深いのは皮と果肉を除いて作ったたわしや、茎か ら採れるヘチマ水。ヘチマの繊維はかたく、お風呂で使 えば初め こそ痛いものの馴染んでくると肌に心地よい刺激を与え、体 をきれいにしてくれます。また、ヘチマ水は肌を引き締め、 調子を整える 化粧水として古くから用いられてきました。じつはくすりとしても利用で き、生の果実を煮たものは咳や痰、 むくみなどに効果があります。 夏休みも今月いっぱい。夏休み明けの子どもたちは大きく育ったヘチ マの実を見て驚くこ とでしょう。でも彼らもまた、夏の間に身も心も成 長しているはずです。中へ。

ギンバイカ(平成26年7月号)

初めて出合ったとしたら、その美しさに言葉を奪われてしまいそうなギンバイカ。上向きに開く5枚の花びら、その中心から伸びる糸のように細いおしべ。 その数、ひとつの花に200本はあるといいます。蕾の開き始めは真っ白な梅に似て、無数のおしべが広がって行くことで際立つ美しさ。光るような白は、 人の目には銀色に映り、「銀梅花(ギンバイカ)」と名付けられたと。
艶のある暗緑色の葉に殺菌作用があり、アロマセラピーにも用いられ、乾燥させたものはスパイスとしても。香りは少し甘みがかった青っぽさ、ユーカ リに似てなくもありません。
純白が銀色に喩えられるその花は、純潔の象徴として結婚式でも使われます。ブーケを手にチャペルの扉を開ければ、きっと幸せになれると…。 微かに甘い香りのする白い花の名は、ギンバイカ。

キンカン(平成26年7月号)

生薬名:金橘(キンキツ)  薬用部:果実  用途:風邪・咳止め・健胃・疲労回復
太陽はますます輝き、額には玉の汗。夏もそろそろ本番で、 次々と咲いたかんきつ類の花が終わりに近づくころ、 ようやく花 を咲かせ始めるキンカン。涼やかな白い花は夏の間咲き続け、や がて結ばれる実は冬の訪れとともに 黄金色に熟します。
これが生 薬、金橘/きんきつで、咳や痰、のどの痛みやかぜの症状などに古 くから用いられて きました。まるで小さなミカンのようなその実は、 果皮が甘く、果肉は酸っぱく。だから皮も丸ごと食べるか、 砂糖漬 けや甘露煮にするのがお勧め。
凍える冬の台所で湯気を立てていたキンカンの甘露煮。喉の痛み にきくの だと小さなころはくすりよりもお世話になりました。 口にじゅわっと広がる甘くて酸っぱくてほろ苦いあの味。 それは夏 の太陽の味。ぴかぴかの黄金色。これは夏の太陽の色、ですよね。

スイカズラ(平成26年6月号)

つる植物のスイカズラ。やや湿り気のある場所に生育し、一年を通して美しい緑を楽しませてくれます。春から夏へと移ろう頃、白い花を咲かせます。最初は清らかな白、やがてふんわりした黄色へと。漢字で「吸い蔓」と書くのは、古くは花を口にくわえて蜜を吸っていたことに因みます。砂糖の無い頃の日本では、代用されていました。水をよく吸う蔓(かずら:つる草の総称)の意で名付けられたとも言われ、由来には諸説あるようです。
冬が来ても葉を少しだけ残して堪え忍ぶことから、別の名を忍冬(ニンドウ)と。それは茎葉の生薬の名でもあり、効果は抗菌と解熱。蕾は生薬名を金銀花(キンギンカ)といい、解熱や抗菌に加えて、消炎・解毒作用もあります。
遥か飛鳥の時代より神々へ捧げる植物とされてきたスイカズラ。国のまほろば、三輪山の神々の心を鎮めるため、いにしえ人たちが始めたのは花鎮祭(はなしずめのまつり)、一名「くすり祭」とも呼ばれます。祈りを託し捧げたのは忍冬と百合根(ユリの根)。どうかいついつまでも、たたなづく青垣となって私たちを守ってくれますように。

ヤマモモ(平成26年6月号)

生薬名:楊梅皮、楊梅  薬用部:樹皮、果実  用途:下痢止め・解毒など 
昨日も、今日も、明日も雨。でも雨の続くこの時期に色づき始めるヤマモモの実。まん丸で真っ赤。表面には小さなツブツブがあり、まるで砂糖をまとったキャンディのよう。かじれば口の中に広がる甘酸っぱい果汁はこの時期にしか味わえない初夏の味です。
また、楊梅(ようばい)という名の生薬として、健胃、整腸効果があり、下痢止めや解毒薬に用いられます。お酒に浸ければ、滋養強壮、高血圧に効く薬酒に。また、木の皮も楊梅皮(ようばいひ)にも同様の効果が。
雨の続く6月。傘を傾け、ヤマモモの木を仰げばたくさんの実り。摘み取ればそれはすぐに傷んでしまいます。だからこそ、雨粒に濡れたとしてもあの赤い果実が欲しくなってしまうのかも。

オウレン(平成26年5月号)

春の初め、山地の木陰に息吹くオウレン。早春に根茎から芽を出し、10センチほどの茎の先端に小さな白い花を咲かせます。生薬とするのは根茎で、薬効を持つオウレンは、セリバオウレン、キクバオウレン、コセリオウレンの3種です。黄色い根に連なるひげ根、だからオウレン。種をまいて収穫するまでに、少なくとも5〜6年は要するようです。薬用の歴史は古く、遡ること平安時代。927年に編纂された法令集「延喜式(えんぎしき)」にその名に見ることができ、近江、信濃、越前、加賀、能登、佐渡、丹波の諸国より朝廷にオウレンが献上されたことを記されています。粉末や煎じたものが処方され、強い苦みは黄色物質のベルベリン。もたらされる効果は、健胃、整腸、消炎、止血、精神安定など。
手の指ほどの長さの先に咲く、オウレンの花。早い春、森に足を踏み入れたなら、どうか足元に気を付けて。落ち葉の中から可憐な白い花が、届くはずもない美しい空を仰いで――。

オオアザミ(平成26年5月号)

生薬名:オオアザミ実  薬用部:果実   用途:胆石症、黄疸など 
葉の上に描かれた白い斑模様。それはオオアザミの鋭いトゲに触れた娘がこぼした、聖母マリアに捧げるはずのミルクが描き出したもの。 そんな言い伝えから別名マリアアザミとも呼ばれるオオアザミは、夏の近づくこの時季から咲き始めます。
2メートルにもた圧する茎の頭には、鋭いトゲをまとう紫色の花。葉の先も鋭く尖り、まるで触れることを拒むかのよう。しかしその種子は肝臓、脾臓の病に効果があるとされ、ヨーロッパでは胆石症や黄疸などの治療に古くから用いられていました。
また、全草に葉食欲増進、消化促進作用があり、柔らかな若芽はサラダなどにして食用とすることもできます。
聖母マリアがその身に宿した子は人々の救いとなりました。マリアアザミの種子もまた、病に苦しむ人の希望―。花が実りを結び、柔らかな綿毛に変われば、苦しみもふわりと飛んで消えていくのです。

バジル(平成26年4月号)

十字架を背負ったキリストが、死を迎えたゴルゴダの丘(この丘は地上に初めて誕生した人類、アダムとイブの墓でもあるとされている)。そこに誰が植えたでもないのに、自生したというバジル。卵型の艶やかな葉から漂ってくる、辛さに少しの甘さの絡んだくっきりとした香り。数あるハーブの中でも「王様の香り」と讃えられます。日本ではイタリア料理がブームになったバブル期よりその名は広がり、今では誰もがその味を知っているほど。原産地のインドでは"ツラシ"の名で聖なるハーブとされています。日本に渡ってきたのは江戸時代。和名は「目箒(めぼうき)」。水に浸しておいたバジルの種を使って、目に入ったごみをとっていたことから、そう名付けられたと。咳止めや口内炎、鼻炎などに処方されることもあったそうです。ギリシャの女帝ハレナは、ゴルゴダの丘よりバジルを持ち帰り、そうしてバジルは世界へと。
悪意を持ってバジルを引き抜くものには災いがふりかかる―。遥か昔から口伝えにされてきた言葉だといいます。青々と茂り、豊かに香るバジルを摘むのなら。心と体にもたらされる恵みを感謝を…。永遠の始まりであるゴルゴダの丘に芽吹いた薬草なのだから。

キランソウ(平成26年4月号)

生薬名:筋骨草(キンコツソウ)  薬用部:全草   用途:鎮咳、去痰など
低く、地面に張りつくように広がり咲く紫色のキランソウ。小さく愛らしい花ですが、「ジゴクノカマノフタ」という不気味な別名も持っています。 その由来はいくつかあり、春の彼岸の地獄の釜が開く頃に咲くからとか、葉が地を覆い尽くす様子が地面に蓋をしているように見えるからとか、薬が効いて快復し、地獄へ向かう釜に蓋をしてしまうからとか…。
キランソウは全草を生薬・筋骨草(キンコツソウ)といい、咳や痰、発熱、下痢に古くから民間療法で用いられてきました。そして現代では骨粗しょう症を予防したり、関節の痛みを和らげたり、筋肉を増やすなどの効果に注目が集まっています。まさに骨や筋肉に役立つ薬草。
古くから語り継がれてきた薬草に見つかった新しい可能性。小さなキランソウが咲かせるのは、健やかな未来という大きな花、なのでは―。

ウスバサイシン(平成26年3月号)

鳥たちのさえずり響く春。やわらかな陽が降り注ぐ野辺から森の入口へと―。ひっそりと、仄暗い場所に生きるウスバサイシン。光りを避けるようにして咲く花は、美しい赤紫色。花弁のようには見えますが、その赤紫の部分は咢(がく)で、花のつくりが同じカンアオイ属とは仲間。花だけでなく、葉もよく似たハートの形。仲間の種と比べ、葉が薄く、根が辛いことに名前は由来します。根茎の髭根の部分には、解熱、鎮痛、咳止めなどの効果があり、風邪や気管支炎の症状に処方されます。細い根、その味の辛さにちなみ、生薬名は細辛(サイシン)と。
花はすぐに終わりを迎え、夏の頃には葉さえも枯れ落ちてしまいます。そんな儚いウスバサイシンの葉にしか卵を産み付けないのが、春一番に姿を現す姫岐阜蝶(ヒメギフチョウ)。葉、茎、花、地上の全てを幼虫が食べ尽くし、丸裸に。しかし、根だけは残り、巡りくる春、再び芽吹きます。まるで、この蝶のために繰り返される営みのような。
今年もまた、我が身を捧げては蝶の命を繋ぐ。狃佞僚神瓩量召如△修糧しさが讃えられる姫岐阜蝶。 女神と呼ぶのなら、命でもって命を育むウスバサイシンこそ…。

アンズ(平成26年3月号)

生薬名:杏仁 薬用部:種子 用 途:鎮咳、去痰 
梅が終わり、桃の花が咲き出して、桜前線の北上を待ち遠しく思う頃、いつの間にかに咲いているアンズ。薄紅色の5弁の花はウメに似ていますが萼(がく)が反り返るので見分けることができます。そして梅雨の頃には甘い香りの果実。この中の種子は苦みのある「杏仁(きょうにん)」と甘みのある「甜杏仁(てんきょうにん)」の2種類に分けられます。
杏仁は古くから薬用として用いられ、痰や咳、風邪のくすりなどにされています。甜杏仁はにおいを嗅げば一目瞭然。杏仁豆腐のあの香り。それもそのはず、もともと杏仁豆腐は咳などに効く薬膳料理として作られたもので甜杏仁が使われているのです。
日いちにちと暖かくなって、季節はもう春。杏の花の甘酸っぱい香りをまとう風に乗って、モンシロチョウがひらひらと舞い始めています。

クワズイモ(平成26年2月号)

私たち人間とは違う世界の小さくて優しいものたちが―。雨降る日、さしていた大きな大きな緑の葉。幼い頃に読んだおとぎ話に出てきた雨傘のよう。それは、形も生え方も、畑で見かけるサトイモとそっくりなクワズイモの葉。違うのは、芋に毒があって食べることができないところ。
喰えない芋、だからクワズイモ。毒があるといっても、根茎の部分は広狼毒(こうろうどく)という名の生薬で、喘息や肺結核、疥癬(かいせん)などの皮膚病に用いられます。花が咲くのは夏。薄黄色の花穂は、仏炎苞と呼ばれる葉に包まれています。
雨の日に、そっと葉の下を覗いてみれば。おとぎの国の住人が、空を見上げながら雨宿りをしているかも…。雲の隙間から太陽の光が注ぎ、緑の上を転がる水玉はきらきらと。

サンシュユ(平成26年2月号)

生薬名:山茱萸(サンシュユ) 薬用部:果実 用 途:利尿、滋養、強壮 
梅の花がほころぶころ、後を追うように咲き始めるサンシュユ。江戸時代の中ごろに薬用として朝鮮から伝わり、東京の小石川植物園と駒場植物園に植えられました。それから経つこと約300年。その姿は公園や庭先などで多く目にします。
若葉が芽吹く前に咲く花は、ポッと開いた小さな黄色の花火のよう。それを枝いっぱいにまとえば、春の木漏れ日を浴びて黄金色に輝きます。サンシュユの別名、春黄金花(はるこがねばな)はその姿から名づけられました。
秋になれば実る艶やかな赤い果実は生薬、山茱萸(サンシュユ)。利尿や滋養強壮に効果があり、くすりとしてだけでなく、薬用酒としても親しまれています。
吹き抜ける風がまだ冷たい2月。けれどもサンシュユの黄金色には、ひと足早い春のぬくもりを感じることができます。

クマザサ(平成26年1月号)

中国最古の薬物書『神農本草経(しんのうほんぞうきょう:古代中国に伝わる薬物の知識が集録された薬物書。編者、刊行年など不明)』に登場するクマザサ。葉の縁が白く、歌舞伎の化粧、隈取りに似ているというので、漢字で書くと隈笹と。古くより日本人の生活と深く結びついてきた植物で、ちまき、笹寿司、お酒の防腐剤、食品の殺菌や防臭など、食品を中心に利用されて きました。熊が食料にしたり、出没しそうな場所に生えたりするネマガリダケやオカメザサのことを“熊笹”と呼んでいる地方も。しかし、和名でクマザサと名付けられたものは、高さが1〜2m、葉の長さは20cmを超え、幅は4〜5cmもある大きな笹です。ササ属に分類され、学名で「Sasa」 と表されます。この「Sasa」とは日本語の“ササ”で、葉がすれ合う音が名前に用いられたとされています。クマザサのエキスは、口内炎や口臭、歯槽膿漏などを抑える効き目、また胃炎を改善する効果も発揮します。笹の緑は深く、美しく。幾たび季節が巡ろうと、その緑を保つ生命の息吹に、わが身を重ねられたなら…。

ナズナ(平成26年1月号)

生薬名:薺/ナズナ 薺菜/サイサイ 薬用部:全草 薬効:止血・消炎
早春から初夏にかけて小さな白色の花を咲かせ、ハート形の実を結ぶナズナ。ペンペン草の愛称は、この実が三味線をはじくバチに似ていることからとも言われています。田んぼや畑はもちろん、道端でもよく見かける植物ですが、ナズナは腹痛、下痢、高血圧や眼の充血などに用いる薬草としても古くから親しまれてきました。
正月気分も抜け、一息ついた1月7日。この日に食べられるのがナズナを含めたセリ、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ、ホトケノザ(コオニタビラコ)、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)の七種の野草を入れて炊いた七草粥。七草の青い苦みやほのかな塩味は正月料理に疲れた胃腸を労わってくれます。しかしもともとの七草粥は邪気を祓い、無病息災を祈って食べられるものでした。
まだ遠い春の訪れ。七草粥を食べればきっと、健やかな一年となるはず―――。

スパシフィラム(平成25年12月号)

スパシフィラムの姿は清らかな白。同じサトイモ科の水芭蕉と似ています。艶やかな緑の葉色と白のコントラストが綺麗。花穂をくるんでいるその美しい白いものは葉で、花ではありません。
スパシフィラムの花はとても小さく、肉質の太い穂に一面に並んで咲きます。大きな白い葉の名前は仏炎苞(ぶつえんほう)。如来様や菩薩様から放たれる光の形猜炎瓩里茲Δ如△修怜に穂は守られているのです。日本へ渡ってきたのは明治の末。その頃の呼び名は、“笹団扇(ささうちわ)”。団扇として使えそうで、笹に似た形をしていたから、そう呼んだのではないでしょうか。日本では観葉植物として知られていますが、根茎(こんけい)を用いれば、喉の痛み、腫れを抑えることができます。
いつの時代でも、人は病や心の苦しみから逃れようと祈ります。仏への祈りなくして明日が訪れることがなかった時代、スパシフィラムが仏炎のように見えたのは…。全てのものに感謝し、祈りを捧げる仏様が心に棲んでいたから ―。

ビワ(平成25年12月号)

生薬名:枇杷葉、枇杷仁  薬用部:葉、種子、果実
用途:消炎、下痢止め、利尿、鎮咳 
冷たく凍える冬の景色に仄かに甘い香りを漂わせる淡い黄色の花。それは初夏にオレンジ色の実を結ぶビワ。寒さが厳しくなるこの時期から1月頃まで花は咲き、それからゆっくりと実が大きくなっていきます。
果物として親しまれるビワですが、一年中茂るその葉はせきどめや消炎作用など多くの効能を持ち、万病に聞くと言われるほど。江戸時代の夏の風物詩、「枇杷葉湯(びわようとう)」はビワの葉に肉桂や甘草など7種類の生薬を混ぜて煎じた清涼飲料水で、暑気払いや急性の下痢に効果があります。あせもや湿しん、アトピーなどはビワの葉を煎じたもので患部を洗うか、刻んだ葉をお風呂に入れ薬湯にして。ビワが「大薬王木」「無憂扇」などの名を持つのは数々の病を治して憂いを去ってくれるから。ますます寒さが厳しい季節。枇杷葉湯に浸かれば肌はすべすべ、体は温まり、風邪もどこかへ吹き飛んでしまうかも。

オリーブ(平成25年11月号)

オリーブは長寿の木。世界には樹齢3000年を超すものもあるのだそうです。モクセイ科の常緑中高木で、紀元前300年にはメソポタミア地方で栽培されていたと言います。
日本に伝来したのは文久2年(1862)。主な栽培地は、香川県小豆島です。最も樹齢が長いのは神戸は湊川神社(みなとがわじんじゃ)のオリーブで、明治11年(1878)にフランスから持ち込まれました。樹齢130年を超えても、毎年、実を結ぶそうです。
初夏、キンモクセイに似た白っぽい花を咲かせ、秋にはぷlっくりとした黒色の果実に。熟した実を搾って、しばらく置いておくと果汁の表面に薄っすらと黄緑色の層ができます。これが、オリーブオイル。食用とされる他、石鹸に用いられることもあれば、女性にとっては化粧品でもお馴染みでしょう。くすりとして用いれば、血中の中性脂肪やコレステロールなどの脂質レベルを改善するため、動脈硬化を予防する働きがあります。その効果のほどは納豆と並び、世界の5大健康食品と言う人たちも。
数千年も前から人々の暮らしに息づいてきたオリーブ。まるで自然の力をぎゅっと閉じ込めたかのように膨らんだ果実。みんなの健康を支えるため、降り注ぐ太陽の光をいっぱいに浴びて…。

サフラン(平成25年11月号)

生薬名:蔵紅花  薬用部:花柱  用途:鎮静、鎮痛、月経不順
足元に15僂曚匹両祥佞忙た葉。細いその間からは香りのある紫の花が顔をのぞかせます。その花は春に咲くクロッカスにそっくり。そのため「秋咲きのクロッカス」とも呼ばれています。
花の中心には細長い真っ赤な雌しべが3本。これがサフランライスやブイヤベースでおなじみの“サフラン”。真っ赤な色をしているのに、水に浸けるとなぜか黄金のような金色に。
この雌しべは生薬「蔵紅花」。古くから鎮痛や精神不安など特に婦人病の妙薬として処方されてきました。
小さな花から雌しべを摘むのは女性の仕事。虫や風にそれが傷つけられてしまわないよう、花が咲いたらすぐに集めます。 そして約130輪の花から得た400本の雌しべもほんの1gの生薬にしかなりません。
今も昔もとても高価なくすり。透き通る黄金色は花を摘む女性たちが見た朝の光の輝きのよう…

サンショウ(平成25年10月号)

サンショウはワサビと並ぶ日本の香辛料。山里などにも自生していて、山菜としても古くから親しまれてきた植物です。“小粒でピリリ”の諺で知っているだけでなく、冷や奴や刺身のつま、お吸い物に浮かべたりする若葉(木の芽:きのめ)の味でも。
未熟な青い果実は佃煮に、熟した果皮は鰻の蒲焼きに。七味唐辛子にも含まれています。食用とするだけでなく、生薬名を蜀椒(しょくしょう)といい、くすりとしても用いられます。
江戸末期から明治時代にかけて活躍した浅田宗伯(浅田飴の処方を考案した人)の「古方薬議」によると“味辛温。中を温め、気を下し、チョウ結を破り、胃を開き、腹中冷えて傷むるを主る。”と書かれています。胃腸障害である胃炎や食欲不振、消化不良といった症状の改善に有効ということでしょう。他に利尿、抗菌、咳止めなどの作用もあります。
美しい黄緑色の葉。一枚を手のひらに乗せ、強く叩くと瞬間に広がる香り。それはとても独特で、山の香りに淡い辛さが混じるような。子どもの頃、大人のものと思っていたこの香りが心地よいなんて。故郷の薫ではないはずなのに…。

トウガラシ(平成25年10月号)

生薬名:辣椒(ラツショウ)、番椒(バンショウ) 
薬用部:果実   用 途:筋肉痛・神経痛(外用薬として)、健胃 
空を指差すようにピンと立ち、太陽の光を吸収して育った真っ赤なトウガラシ。 見ているだけで汗が出て、舌がヒリヒリ。 この辛さの正体カプサイシンは、種をつけているわたの部分(胎座)に含まれているので生のトウガラシはワタを取ってしまえばほとんど辛さを感じません。乾燥させたトウガラシの種や果肉が辛いのは乾燥したワタが崩れて付いてしまうからです。 しかし、カプサイシンには胃を元気にし、消化吸収を助けたり、新陳代謝をよくして汗を出し、血行をよくする働きがあります。アルコールに浸けたものは神経痛や筋肉痛の外用薬として、昔は足袋の中に入れてつま先の冷えを防いだり、天然の防虫剤として雛人形などとともに納められたりすることも。 熱々のうどんにはらはらと。トウガラシだけなら一味、薬味を足して七味。 日本の料理に欠かすことのできない一振りは、辛さと香りで食欲の秋の訪れを告げてくれます。