バジル(平成26年4月号)

十字架を背負ったキリストが、死を迎えたゴルゴダの丘(この丘は地上に初めて誕生した人類、アダムとイブの墓でもあるとされている)。そこに誰が植えたでもないのに、自生したというバジル。卵型の艶やかな葉から漂ってくる、辛さに少しの甘さの絡んだくっきりとした香り。数あるハーブの中でも「王様の香り」と讃えられます。日本ではイタリア料理がブームになったバブル期よりその名は広がり、今では誰もがその味を知っているほど。原産地のインドでは"ツラシ"の名で聖なるハーブとされています。日本に渡ってきたのは江戸時代。和名は「目箒(めぼうき)」。水に浸しておいたバジルの種を使って、目に入ったごみをとっていたことから、そう名付けられたと。咳止めや口内炎、鼻炎などに処方されることもあったそうです。ギリシャの女帝ハレナは、ゴルゴダの丘よりバジルを持ち帰り、そうしてバジルは世界へと。
悪意を持ってバジルを引き抜くものには災いがふりかかる―。遥か昔から口伝えにされてきた言葉だといいます。青々と茂り、豊かに香るバジルを摘むのなら。心と体にもたらされる恵みを感謝を…。永遠の始まりであるゴルゴダの丘に芽吹いた薬草なのだから。

キランソウ(平成26年4月号)

生薬名:筋骨草(キンコツソウ)  薬用部:全草   用途:鎮咳、去痰など
低く、地面に張りつくように広がり咲く紫色のキランソウ。小さく愛らしい花ですが、「ジゴクノカマノフタ」という不気味な別名も持っています。 その由来はいくつかあり、春の彼岸の地獄の釜が開く頃に咲くからとか、葉が地を覆い尽くす様子が地面に蓋をしているように見えるからとか、薬が効いて快復し、地獄へ向かう釜に蓋をしてしまうからとか…。
キランソウは全草を生薬・筋骨草(キンコツソウ)といい、咳や痰、発熱、下痢に古くから民間療法で用いられてきました。そして現代では骨粗しょう症を予防したり、関節の痛みを和らげたり、筋肉を増やすなどの効果に注目が集まっています。まさに骨や筋肉に役立つ薬草。
古くから語り継がれてきた薬草に見つかった新しい可能性。小さなキランソウが咲かせるのは、健やかな未来という大きな花、なのでは―。

ウスバサイシン(平成26年3月号)

鳥たちのさえずり響く春。やわらかな陽が降り注ぐ野辺から森の入口へと―。ひっそりと、仄暗い場所に生きるウスバサイシン。光りを避けるようにして咲く花は、美しい赤紫色。花弁のようには見えますが、その赤紫の部分は咢(がく)で、花のつくりが同じカンアオイ属とは仲間。花だけでなく、葉もよく似たハートの形。仲間の種と比べ、葉が薄く、根が辛いことに名前は由来します。根茎の髭根の部分には、解熱、鎮痛、咳止めなどの効果があり、風邪や気管支炎の症状に処方されます。細い根、その味の辛さにちなみ、生薬名は細辛(サイシン)と。
花はすぐに終わりを迎え、夏の頃には葉さえも枯れ落ちてしまいます。そんな儚いウスバサイシンの葉にしか卵を産み付けないのが、春一番に姿を現す姫岐阜蝶(ヒメギフチョウ)。葉、茎、花、地上の全てを幼虫が食べ尽くし、丸裸に。しかし、根だけは残り、巡りくる春、再び芽吹きます。まるで、この蝶のために繰り返される営みのような。
今年もまた、我が身を捧げては蝶の命を繋ぐ。狃佞僚神瓩量召如△修糧しさが讃えられる姫岐阜蝶。 女神と呼ぶのなら、命でもって命を育むウスバサイシンこそ…。

アンズ(平成26年3月号)

生薬名:杏仁 薬用部:種子 用 途:鎮咳、去痰 
梅が終わり、桃の花が咲き出して、桜前線の北上を待ち遠しく思う頃、いつの間にかに咲いているアンズ。薄紅色の5弁の花はウメに似ていますが萼(がく)が反り返るので見分けることができます。そして梅雨の頃には甘い香りの果実。この中の種子は苦みのある「杏仁(きょうにん)」と甘みのある「甜杏仁(てんきょうにん)」の2種類に分けられます。
杏仁は古くから薬用として用いられ、痰や咳、風邪のくすりなどにされています。甜杏仁はにおいを嗅げば一目瞭然。杏仁豆腐のあの香り。それもそのはず、もともと杏仁豆腐は咳などに効く薬膳料理として作られたもので甜杏仁が使われているのです。
日いちにちと暖かくなって、季節はもう春。杏の花の甘酸っぱい香りをまとう風に乗って、モンシロチョウがひらひらと舞い始めています。

クワズイモ(平成26年2月号)

私たち人間とは違う世界の小さくて優しいものたちが―。雨降る日、さしていた大きな大きな緑の葉。幼い頃に読んだおとぎ話に出てきた雨傘のよう。それは、形も生え方も、畑で見かけるサトイモとそっくりなクワズイモの葉。違うのは、芋に毒があって食べることができないところ。
喰えない芋、だからクワズイモ。毒があるといっても、根茎の部分は広狼毒(こうろうどく)という名の生薬で、喘息や肺結核、疥癬(かいせん)などの皮膚病に用いられます。花が咲くのは夏。薄黄色の花穂は、仏炎苞と呼ばれる葉に包まれています。
雨の日に、そっと葉の下を覗いてみれば。おとぎの国の住人が、空を見上げながら雨宿りをしているかも…。雲の隙間から太陽の光が注ぎ、緑の上を転がる水玉はきらきらと。

サンシュユ(平成26年2月号)

生薬名:山茱萸(サンシュユ) 薬用部:果実 用 途:利尿、滋養、強壮 
梅の花がほころぶころ、後を追うように咲き始めるサンシュユ。江戸時代の中ごろに薬用として朝鮮から伝わり、東京の小石川植物園と駒場植物園に植えられました。それから経つこと約300年。その姿は公園や庭先などで多く目にします。
若葉が芽吹く前に咲く花は、ポッと開いた小さな黄色の花火のよう。それを枝いっぱいにまとえば、春の木漏れ日を浴びて黄金色に輝きます。サンシュユの別名、春黄金花(はるこがねばな)はその姿から名づけられました。
秋になれば実る艶やかな赤い果実は生薬、山茱萸(サンシュユ)。利尿や滋養強壮に効果があり、くすりとしてだけでなく、薬用酒としても親しまれています。
吹き抜ける風がまだ冷たい2月。けれどもサンシュユの黄金色には、ひと足早い春のぬくもりを感じることができます。

クマザサ(平成26年1月号)

中国最古の薬物書『神農本草経(しんのうほんぞうきょう:古代中国に伝わる薬物の知識が集録された薬物書。編者、刊行年など不明)』に登場するクマザサ。葉の縁が白く、歌舞伎の化粧、隈取りに似ているというので、漢字で書くと隈笹と。古くより日本人の生活と深く結びついてきた植物で、ちまき、笹寿司、お酒の防腐剤、食品の殺菌や防臭など、食品を中心に利用されて きました。熊が食料にしたり、出没しそうな場所に生えたりするネマガリダケやオカメザサのことを“熊笹”と呼んでいる地方も。しかし、和名でクマザサと名付けられたものは、高さが1〜2m、葉の長さは20cmを超え、幅は4〜5cmもある大きな笹です。ササ属に分類され、学名で「Sasa」 と表されます。この「Sasa」とは日本語の“ササ”で、葉がすれ合う音が名前に用いられたとされています。クマザサのエキスは、口内炎や口臭、歯槽膿漏などを抑える効き目、また胃炎を改善する効果も発揮します。笹の緑は深く、美しく。幾たび季節が巡ろうと、その緑を保つ生命の息吹に、わが身を重ねられたなら…。

ナズナ(平成26年1月号)

生薬名:薺/ナズナ 薺菜/サイサイ 薬用部:全草 薬効:止血・消炎
早春から初夏にかけて小さな白色の花を咲かせ、ハート形の実を結ぶナズナ。ペンペン草の愛称は、この実が三味線をはじくバチに似ていることからとも言われています。田んぼや畑はもちろん、道端でもよく見かける植物ですが、ナズナは腹痛、下痢、高血圧や眼の充血などに用いる薬草としても古くから親しまれてきました。
正月気分も抜け、一息ついた1月7日。この日に食べられるのがナズナを含めたセリ、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ、ホトケノザ(コオニタビラコ)、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)の七種の野草を入れて炊いた七草粥。七草の青い苦みやほのかな塩味は正月料理に疲れた胃腸を労わってくれます。しかしもともとの七草粥は邪気を祓い、無病息災を祈って食べられるものでした。
まだ遠い春の訪れ。七草粥を食べればきっと、健やかな一年となるはず―――。

スパシフィラム(平成25年12月号)

スパシフィラムの姿は清らかな白。同じサトイモ科の水芭蕉と似ています。艶やかな緑の葉色と白のコントラストが綺麗。花穂をくるんでいるその美しい白いものは葉で、花ではありません。
スパシフィラムの花はとても小さく、肉質の太い穂に一面に並んで咲きます。大きな白い葉の名前は仏炎苞(ぶつえんほう)。如来様や菩薩様から放たれる光の形猜炎瓩里茲Δ如△修怜に穂は守られているのです。日本へ渡ってきたのは明治の末。その頃の呼び名は、“笹団扇(ささうちわ)”。団扇として使えそうで、笹に似た形をしていたから、そう呼んだのではないでしょうか。日本では観葉植物として知られていますが、根茎(こんけい)を用いれば、喉の痛み、腫れを抑えることができます。
いつの時代でも、人は病や心の苦しみから逃れようと祈ります。仏への祈りなくして明日が訪れることがなかった時代、スパシフィラムが仏炎のように見えたのは…。全てのものに感謝し、祈りを捧げる仏様が心に棲んでいたから ―。

ビワ(平成25年12月号)

生薬名:枇杷葉、枇杷仁  薬用部:葉、種子、果実
用途:消炎、下痢止め、利尿、鎮咳 
冷たく凍える冬の景色に仄かに甘い香りを漂わせる淡い黄色の花。それは初夏にオレンジ色の実を結ぶビワ。寒さが厳しくなるこの時期から1月頃まで花は咲き、それからゆっくりと実が大きくなっていきます。
果物として親しまれるビワですが、一年中茂るその葉はせきどめや消炎作用など多くの効能を持ち、万病に聞くと言われるほど。江戸時代の夏の風物詩、「枇杷葉湯(びわようとう)」はビワの葉に肉桂や甘草など7種類の生薬を混ぜて煎じた清涼飲料水で、暑気払いや急性の下痢に効果があります。あせもや湿しん、アトピーなどはビワの葉を煎じたもので患部を洗うか、刻んだ葉をお風呂に入れ薬湯にして。ビワが「大薬王木」「無憂扇」などの名を持つのは数々の病を治して憂いを去ってくれるから。ますます寒さが厳しい季節。枇杷葉湯に浸かれば肌はすべすべ、体は温まり、風邪もどこかへ吹き飛んでしまうかも。

オリーブ(平成25年11月号)

オリーブは長寿の木。世界には樹齢3000年を超すものもあるのだそうです。モクセイ科の常緑中高木で、紀元前300年にはメソポタミア地方で栽培されていたと言います。
日本に伝来したのは文久2年(1862)。主な栽培地は、香川県小豆島です。最も樹齢が長いのは神戸は湊川神社(みなとがわじんじゃ)のオリーブで、明治11年(1878)にフランスから持ち込まれました。樹齢130年を超えても、毎年、実を結ぶそうです。
初夏、キンモクセイに似た白っぽい花を咲かせ、秋にはぷlっくりとした黒色の果実に。熟した実を搾って、しばらく置いておくと果汁の表面に薄っすらと黄緑色の層ができます。これが、オリーブオイル。食用とされる他、石鹸に用いられることもあれば、女性にとっては化粧品でもお馴染みでしょう。くすりとして用いれば、血中の中性脂肪やコレステロールなどの脂質レベルを改善するため、動脈硬化を予防する働きがあります。その効果のほどは納豆と並び、世界の5大健康食品と言う人たちも。
数千年も前から人々の暮らしに息づいてきたオリーブ。まるで自然の力をぎゅっと閉じ込めたかのように膨らんだ果実。みんなの健康を支えるため、降り注ぐ太陽の光をいっぱいに浴びて…。

サフラン(平成25年11月号)

生薬名:蔵紅花  薬用部:花柱  用途:鎮静、鎮痛、月経不順
足元に15僂曚匹両祥佞忙た葉。細いその間からは香りのある紫の花が顔をのぞかせます。その花は春に咲くクロッカスにそっくり。そのため「秋咲きのクロッカス」とも呼ばれています。
花の中心には細長い真っ赤な雌しべが3本。これがサフランライスやブイヤベースでおなじみの“サフラン”。真っ赤な色をしているのに、水に浸けるとなぜか黄金のような金色に。
この雌しべは生薬「蔵紅花」。古くから鎮痛や精神不安など特に婦人病の妙薬として処方されてきました。
小さな花から雌しべを摘むのは女性の仕事。虫や風にそれが傷つけられてしまわないよう、花が咲いたらすぐに集めます。 そして約130輪の花から得た400本の雌しべもほんの1gの生薬にしかなりません。
今も昔もとても高価なくすり。透き通る黄金色は花を摘む女性たちが見た朝の光の輝きのよう…

サンショウ(平成25年10月号)

サンショウはワサビと並ぶ日本の香辛料。山里などにも自生していて、山菜としても古くから親しまれてきた植物です。“小粒でピリリ”の諺で知っているだけでなく、冷や奴や刺身のつま、お吸い物に浮かべたりする若葉(木の芽:きのめ)の味でも。
未熟な青い果実は佃煮に、熟した果皮は鰻の蒲焼きに。七味唐辛子にも含まれています。食用とするだけでなく、生薬名を蜀椒(しょくしょう)といい、くすりとしても用いられます。
江戸末期から明治時代にかけて活躍した浅田宗伯(浅田飴の処方を考案した人)の「古方薬議」によると“味辛温。中を温め、気を下し、チョウ結を破り、胃を開き、腹中冷えて傷むるを主る。”と書かれています。胃腸障害である胃炎や食欲不振、消化不良といった症状の改善に有効ということでしょう。他に利尿、抗菌、咳止めなどの作用もあります。
美しい黄緑色の葉。一枚を手のひらに乗せ、強く叩くと瞬間に広がる香り。それはとても独特で、山の香りに淡い辛さが混じるような。子どもの頃、大人のものと思っていたこの香りが心地よいなんて。故郷の薫ではないはずなのに…。

トウガラシ(平成25年10月号)

生薬名:辣椒(ラツショウ)、番椒(バンショウ) 
薬用部:果実   用 途:筋肉痛・神経痛(外用薬として)、健胃 
空を指差すようにピンと立ち、太陽の光を吸収して育った真っ赤なトウガラシ。 見ているだけで汗が出て、舌がヒリヒリ。 この辛さの正体カプサイシンは、種をつけているわたの部分(胎座)に含まれているので生のトウガラシはワタを取ってしまえばほとんど辛さを感じません。乾燥させたトウガラシの種や果肉が辛いのは乾燥したワタが崩れて付いてしまうからです。 しかし、カプサイシンには胃を元気にし、消化吸収を助けたり、新陳代謝をよくして汗を出し、血行をよくする働きがあります。アルコールに浸けたものは神経痛や筋肉痛の外用薬として、昔は足袋の中に入れてつま先の冷えを防いだり、天然の防虫剤として雛人形などとともに納められたりすることも。 熱々のうどんにはらはらと。トウガラシだけなら一味、薬味を足して七味。 日本の料理に欠かすことのできない一振りは、辛さと香りで食欲の秋の訪れを告げてくれます。

トチノキ(平成25年9月号)

山地に自生する日本固有種のトチノキ(栃の木)。山道を歩いていると、その大きさに目を奪われてしまうことが…。大きいものだと、高さ30メートルを超え、幹の径は4メートルにまでなることが。20センチほどの長い柄の先に、広げた手の平のような大きな葉。
5月、枝先に直立した円錐形の花を咲かせます。花はミツバチの蜜源(ミツバチが蜂蜜を作るために蜜を集める花)で、トチ蜜の味は、他の蜜よりやや苦め。 くすりとして用いるのは、樹皮や種子。樹皮を煎じたものは下痢を止め、種子を煎じればしもやけ、痔、水虫を治すことができます。
栗に似た褐色の栃の実が熟すのは秋。渋みが強く動物も食べないほどですが、種子のアクを抜き、米などと合わせて加工すれば食べることができます。東京、桜田通りにて、栃の実を拾い集める姿は風物。国道1号(桜田通り)に延長600メートル、高さ12メートル、73本のトチノキが並んでいます。1912年(明治45年)に植えられたもので、東京に残っている最も古い街路樹です。
空に届くほど高くはないけれど、夏の日差しを遮ってくれる大きな緑の葉には、きっと葉守神(はもりのかみ)が…。

イチジク(平成25年9月号)

生薬名:無花果・無花果葉  薬用部:果実、葉、茎
用途 :緩下、咽頭痛、イボとり、痔 など 
青々と葉が茂ったと思ったら、いつの間にか丸い実を結んでいるイチジク。花はいつ咲いたの、と本当に不思議…。じつは私たちが実だと思っているものは花嚢/花托(花を支える台座)が変化したもの。それを半分に割ったときに見える紅いツブツブがイチジクの花で、あの独特の食感の原因。私たちは花とその台座を実として食べているのです。
この果実は食物繊維が豊富な上、消化を促進しおなかの調子を整える効果もあるので下痢や便秘などに効果的。枝や葉を傷つけたときに出てくる白い液はいぼとりに利用することができます。また、葉を乾燥させものを湯に入れた薬湯は、神経痛や痔によいとされます。
イチジクは実りのある恋や子宝に恵まれる象徴。それは実の中に咲いた小さな花が家族の中に生まれるたくさんの幸福のようなものだからなのかもしれません。

蚊取り線香(平成25年8月号)

犇眥鮫 と言えば、夏を連想させる言葉の一つ。 コマーシャルそのものが、夏の風物でもある金鳥印の 牴禺茲蠕香瓠 発売当初の蚊取り線香の原料は、クロアチア原産の植物、シロバナムシヨケギク。花にピレトリンという殺虫成分が含まれています。
名前の通り、菊とよく似た白い花を咲かせます。虫よけの菊、ということから、除虫菊(じょちゅうぎく)と呼ばれることの方が多いようです。アメリカから渡来したのは、1886(明治18)年。研究と開発を重ね、粉末状の蚊取り粉を作り、次いで棒状のもの、そして、1895(明治28)年に現在の形状の渦巻型が完成しました。
その使用方法はいたって簡単。渦巻きの先端に着火するだけ。立ち上る煙に蚊を殺す効果があると思われがちですが、燃焼部分の手前で蒸発するピレスロイドに作用があります。 人体への有害性が少なく、長時間の殺虫空間を作ることのできる渦巻型の蚊取り線香。その誕生によって、古くからの蚊帳の文化は消えて行くことに…。それはそれで、少し寂しいような。

ゲンノショウコ(平成25年8月号)

薬用部/生薬名:全草/現証拠 :種子、花蕾
用途 :下痢止め、健胃整腸 など 
じりじりと照りつける太陽の光。地面からゆらゆらとのぼる蜃気楼。 めまいがするほどの暑さが続くこんな季節でも、ぱっと開いた手のような葉の形、そして小さな花を見せてくれるゲンノショウコ。 花は赤色と白色があり、なぜか西日本では赤、東日本では白が多いのだとか。 古くから下痢止めの妙薬とされ、全草を煎じて飲むと、ぴたりと症状が治ることから、「現によく効く証拠」といわれ、それが名まえになりました。飲み過ぎても副作用がなく、健胃整腸に効く健康茶として飲むこともできます。 暑い時にこそおいしい冷たい飲み物。しかし、飲み過ぎれば腹は痛み、額に浮かぶ脂汗。そんなときに活躍するのがゲンノショウコの一服。 それはむかしから伝えられてきた“手当て”。

白澤(平成25年7月号)

 

聡明で森羅万象(天地間に存在する、数限りないすべてのもの)に通じているという白澤。
古来から中国に伝わる神獣で、人の言葉を理解し、麒麟(きりん)や鳳凰(ほうおう)と同じく、徳の 高い政治者の世にその姿を現すとされています。
牛のような体に人の顔、顎鬚をたくわえ、顔に3つ胴体に6つの眼、額に2本胴体に4本の角。姿については諸説ありますが、9つの眼と6本の角。白澤に遭遇した者は、子々孫々まで家が繁栄するとして、古代から近世までの長きに渡って、病魔除けの神として信じられてきました。
日光東照宮(栃木県日光市)でも見ることができる白澤の図。拝殿に向かって、左の杉戸に描かれています。古く日本の人々の間では、白澤の図を携え旅をしたり、枕の下に忍ばせたりして、邪気や悪夢を遠ざけたと云います。

モモ(平成25年7月号)

薬用部/生薬名:種子/桃仁、花蕾/白桃花 :種子、花蕾
用途 :月経不順、便秘、むくみ、鎮咳 など 
まるくてすべすべ。まるで赤ちゃんのお尻のようなモモ。
一口噛めばジュワっと溢れだす果汁、とろけるような果肉。まさに夏を代表する果物です。
モモの種子は弥生時代の遺跡などからも発見されており、古くから薬用、食用、祭儀用として利用されていたことが分かっています。
モモの種子は桃仁という生薬で婦人病に、花のつぼみは白桃花といい便秘やむくみに用いられます。また、乾燥させた葉を入れた風呂はあせもに効く薬湯。果実も食物繊維を豊富に含み整腸作用があるので便秘の解消に。
中国では、モモは古くから邪気を祓い、不老長寿をもたらす縁起物と考えられ、日本でも桃の節句では女の子が健やかに育つよう桃の花に願いをかけます。 そう思えば、モモの薄紅色に染まったまるい果実はまるで、家族に愛される少女の喜びに満ちた頬のようにもみえてきます。

スモモ(平成25年6月号)

初夏の果物の一つ、真っ赤なスモモ。その味は甘酸っぱく、たっぷりの果汁。汗ばむこの季節、口に含めば喉が潤います。 
日本へ中国から伝わったのは奈良時代。しかし、栽培が始まったのは、明治時代になってから。それまでは犹世辰僂づ蹐里茲Δ別(そこから、酸桃と名付けられたと云われている)瓩箸いν由で、価値を認めてもらえずで。食用としての栽培が本格的になったのは、大正時代以降のことです。中国には 「李下(りか:スモモの木の下)に冠を正さず」 という教えがあります。実を取るつもりがなくとも、スモモの木の下で冠を直すと、盗もうとしているように見えてしまうから、人から疑われる行動は避けるべきと。一本の木に数え切れないほど実るスモモだからこそ、生まれたことわざでしょう。
スモモの葉は「李葉」、実は「李実」という生薬で、咳や炎症のくすりに処方されます。果実を食べる時は、皮ごとぱっくん!  皮にもビタミンC、カルシウム、カロテンなど、栄養素が豊富なので。

クワ(平成25年6月号)

生薬名:桑白皮、桑葉、桑枝、桑椹
薬用部・薬効:根皮/解熱・利尿・鎮咳、葉/強壮、枝/動脈硬化、果実/不眠 
4月に小さな黄色い花が房状に咲き、5〜6月に実を結ぶクワ。よく熟れたイチゴのように赤くなっても、それまだ未熟。食べれば酸っぱさにびっくりするはず。食べ時は真っ黒に色が変わってからです。 また、食用だけでなく薬用にも。果実は桑椹、根の皮は桑白皮、葉は桑葉、枝は桑枝という生薬で、煎じたり、薬用酒にして用いることで、解熱や利尿、強壮などに効果があります。
クワの葉しか食べることのないカイコガの幼虫。それらが紡いだ真っ白な繭の玉は、絹の布へと織り上げられます。養蚕業が盛んだった時代にはたくさんの桑畑がありました。実りの頃にはワクワクしながら寄り道をして摘んで食べたことも。
今はすっかり変わってしまった風景。でもこの季節が来るたびに、あの味が懐かしく思い出されます。

セキショウ(平成25年5月号)

水を好むセキショウは、湿地の日陰で群れをなします。ショウブ(菖蒲)に似た姿をしていますが、セキショウには葉の中央の葉脈がありません。
太くて堅い根茎から伸びるひげ根を岩などに絡み付け生長します。岩に着いて育ち、ショウブに似ているから、石菖(セキショウ)と名付けられたのだと。
花が咲くのは初夏へと移る頃。長い穂に小さな小さな黄緑色の花。日陰にひっそりと咲き、花も目立たないので、咲いても気付かれないことも。しかし、その控え目さに、しとやかな和の味わいが。
菖蒲湯と同じく、香りの強さが邪気を払うとして、端午の節句の日、石菖湯を立て、健康を祈ります。薬効がある根茎の生薬名は石菖(せきしょう)。漢方では鎮痛、鎮静、健胃薬として用いられています。
水辺の縁に被さるように、葉を伸ばし―。渇かぬように、清らかな水を求めて。

カモミール(平成25年5月号)

生薬名:カミツレ   薬用部:頭花
効果:芳香性苦味健胃、食欲増進、発汗、抗炎症など 
ふっくらとした黄色い洋服に、ひらひらとした白いスカート。緑あふれる季節の到来を喜び、踊り出した少女のような、可愛らしいカモミールの花。爽やかな風が吹き抜けると、そこにはくすりのように青く苦い、けれども仄かに甘いリンゴのような香りが漂います。
ヨーロッパでは古くから「治療の秘薬」とされ、常備薬として庭にカモミールを植えました。風邪や頭痛、腹痛のときにはハーブティにして。煎じ液を外用すれば炎症を鎮める効果が。 また、カモミールは他の植物を元気にし、成長を手助けしてくれる「コンパニオンプランツ」。害虫を防ぎ、土壌を豊かにする働きがあることから、畑などにも植えられています。
そして、もうひとつ。ストレスを除き、イライラを鎮めてくれる効果も。
4月から新たな生活を始めた方へ。 カモミールのお茶があなたをほっとやさしく包んでくれますよ。