オレガノ(平成25年4月号)

生命力豊かなハーブたちの中で、ひときわ瑞々しいオレガノ。はっはぱ小さく、茎も細くても、何本もに枝分かれしながら大きくなっていきます。梅雨明け頃に、薄桃色のとても愛らしい花を咲かせます。
ほろ苦い味と清涼感のある香り。独特の風味は、チーズ、トマトとの相性がよく、地中海沿岸地方の料理で活躍するハーブの一つです。ギリシャ語で“山の喜び”を意味するオレガノという名まえ。山地に住む人々が、古くからこのハーブの恩恵を受け、香りを愛した気持が込められているようです。香辛料として料理に多用されますが、さまざまな薬効を示すことでも知られています。風邪、気管支炎、腹痛、頭痛、消化不良、疲労倦怠などに作用するほか、殺菌、解毒の効果もあります。
婚礼の儀式に、オレガノの冠を。そうすれば幸せになれる。 ギリシアにはそんな慣わしが残っているのだと。

カリン(平成25年4月号)

生薬名:和木瓜・榠櫨  薬用部:果実
用途 :鎮咳・鎮痛 など 
今年はいつもより早く桜の花が満開に。辺り一面の薄紅色の風景は、もう若々しい緑の風景に変わり始めました。 そんな中、咲き始めたのがカリンの花です。5枚の花びらは濃いピンク色。10月頃には、甘い香りを漂わせる黄色い果実を結びます。 ただし、この実は非常に堅く、実は渋いばかり。皮をむいて食べることなどとてもできませんが、蜂蜜やお酒に浸けるとカリンの甘い香りが溶け込んだシロップや果実酒として楽しむことができます。 また、熟した頃に実を採取し、縦に割って日干しにしたものは「和木瓜/わもっか」という生薬。咳やのどの痛みを鎮めてくれる効果があります。 咲き始めたばかりの花。蜜蜂たちは忙しなく花から花へと飛び交います。きっと秋には大きな実りが結ばれることでしょう。 カリンの一年は始まったばかりです。

トチュウ(平成25年3月号)

中国、明時代。杜仲(とちゅう)という人が、ある植物を煎じて飲んだところ、病気が治ったという話。そこで、その植物はトチュウと名付けられた―と。
トチュウは20メートルくらいの高さまで成長します。中国最古の薬学書「神農本草経」の上品に収載されている生薬で、人参や鹿角(ろっかく)と並ぶ三大名薬の一つです。15〜20年ほど経った木しかくすりとして用いないため、栽培が進んでいなかった昔は、とても貴重な薬木として扱われていました。日本に伝えられたのは大正7(1918)年。現在では長野県で栽培されています。
樹皮に強壮や利尿、血圧降下などの作用があり、葉は血液をサラサラにしてくれます。しかし、採取量が限られるこの木を保護する目的もあって、一部分だけを剥ぐ方法にて採取されます。
古来、中国では人参より珍重され、“幻の薬木”として崇められていたのだとか―。
緑萌える頃に樹皮をはがれてしまうトチュウ。樹皮が再び戻る頃には、数年の月日を要しますので。しばしの休息を…。

ヒヤシンス(平成25年3月号)

利用部:花・茎 利用法:香料 
太陽のぬくもりを感じて、鮮やかに花が咲き始める春。色もなく、寒々しかった風景が、温かな色に塗り替えられていきます。そんな季節にひときわ甘く、爽やかで華やかな香りを放つのがヒヤシンスです。タマネギのような形に膨らんだ球根からまっすぐにのびた茎。その先に鈴なりに咲いた小さな花。この花を6000埆犬瓩篤世蕕譴襪里、およそ1圓寮彩。この濃厚な花の香りは、うっとりと心を鎮めてくれる効果があります。
しかし、根に含まれるのは毒。ヤマイモに触れると手が痒くなるように、球根に触れればかゆみや痛みを生じます。球根には直に触れないよう、手袋などをすることが大切。
地中海沿岸の国で生まれ、16世紀以降のヨーロッパに広がり、人々に愛された花は18世紀頃には2000種もの品種が作られたとか。
春を告げる花は今日も、甘く華やかな春の香りを漂わせています。

ソテツ(平成25年2月号)

ソテツは強健という表現がぴったりの植物。大気汚染に強く、やせ地でも育ちます。九州南部から沖縄県に野生し、海岸沿いの岩場などによく見られます。幹は黒く、太い円柱型。ほとんど枝分かれせず、高さ5メートルほどにまで成長します。幹の頂部から羽根状の葉を茂らせる姿は、南国をほうふつとさせます。非常に長寿で、国の天然記念物に指定されているものには、樹齢が千年を超すものも。
蘇鉄(そてつ)の名は、この木が衰えた時に幹に鉄釘を打ちこんだり、株元に鉄類を与えたりすると蘇るという謂れから。まことか嘘か…。真偽のほどは定かではありませんが、幹に釘は打たない方が…。
ソテツは雌と雄の株が完全に分かれている植物で6月から8月、それぞれの株で花を咲かせます。雌花は大きな大きなタマネギのような形、そして雄花はトウモロコシ。秋になると、雌花は大きく膨らみ、その中にはまるい実がびっしりと。一粒が卵ほどの大きさはあろうかという巨大な種。この種が蘇鉄実(そてつじつ)、蘇鉄子(そてつし)という生薬で、滋養強壮、健胃、咳止めのくすりとして用いられます。切り傷には、煎じ汁で患部を洗うと効果があると。
潮風や激しい雨にも負けない強さを持つソテツの木。昔むかし、弱りかけたこの木の命を惜しみ、蘇生するであろうことを信じ、誰かが釘を打ち込んだのだとしたら―。樹齢を重ねたソテツを見るたび、得も言われぬ思い…なにか哀しさを覚えるのは私だけでしょうか。

フクジュソウ(平成25年2月号)

生薬名:福寿草根 薬用部:根・根茎
薬効:強心・利尿 
「難を転じて福となす」のナンテンと、「福」に「寿」の字をそなえたフクジュソウ。そのおめでたい名前から、二つを組み合わせたものはお正月の飾り花として用いられます。でも、本当はフクジュソウの花が咲くのは2月から。それが旧暦の正月にあたることから、別名「元日草」、「朔日草」といい、新年を祝う花になりました。
日の光や温度に敏感で、昼間でも日が陰れば花を閉じ、日が出れば再び花を開きます。冬の厳しい時期に咲くため、花びらを開閉することで寒さから身を守っているのだとか。このフクジュソウは薬草であり、毒草。根を強心、利尿薬として使われますが、あまりに毒性が強いため、専門家以外は決して用いることはできません。
春に芽をだし、花を咲かせ、夏までに栄養を蓄えて再び地中で眠りについてしまう花のことをスプリングエフェメラル-春の妖精-といいます。
フクジュソウもその一つ。花言葉は「幸せを招く」。その美しい姿でいられる時間はほんのわずか。でもその間に、確かに幸せを与えてくれているのです。

ブッシュカン(平成25年1月号)

風変わりな名前のブッシュカン。インド原産の果樹で、かんきつ類なのに生食には向きません。
ヘタのあたりはミカンのようですが、先端は垂れた手のように5〜10本に分かれています。その形が仏さまの手に見えるというのが、仏手柑(ぶっしゅかん)の名前の由来。指先がきれいに開いた状態で実るのは、ほんのわずか。指が四方八方にくねったイソギンチャクのような形のものは珍重され、正月飾りに用いられます。ザクロ、モモ、ブッシュカン。これら三種の組み合わせを「三果文(さんかもん)」といい、子宝、長寿、仏の手を表した吉祥文様です。
漢方では、イチョウの働きを整える健胃剤、肺に溜まった痰を取り去る去痰剤として使われます。しもやけやあかぎれになった時、果実の汁を塗るという地方もあるようです。日本での歴史は古く、江戸時代に書かれた「農業全書(のうぎょうぜんしょ 1697年刊行 日本最古の農書)に収載されているほど。
黄金色した仏の手。その光輝く手のひらで、優しく触れてもらえたなら。閉ざされた人の心にも光が差し込むのかも…。心の傷も癒え、未来を取り戻せると―。

ダイダイ(平成25年1月号)

生薬名:橙皮/とうひ・枳実/きじつ 薬用部:果皮・未熟果実
薬効:芳香性苦味健胃 
正月飾りに欠かせない鏡餅。その上にちょこんと座るダイダイの 実。見た目はミカンにそっくりですが、味は苦くて酸っぱくて、そ のままでは食べることはできません。おいしく食べるなら、皮を甘 く煮詰めてマーマレードにしたり、果汁を搾ってポン酢にしたり。そ のさわやかな香りによって、芳香性苦味健胃薬にも利用されます。 ダイダイは秋に実を結び、冬に橙色に熟します。しかしその実の 多くは落ちることなく夏まで残り、緑色に戻ってしまいます。だか ら別名「回青橙/かいせいとう」。そして冬にはもう一度橙色に。 こうして一つの木に、新しい実と古い実がなることから「代々/だ いだい」の名前がつきました。 円く、満たされた年を重ねて行けま すように、と丸い餅を積み、代々の 幸福を祈ってダイダイを天辺に。

スパシフィラム(平成24年12月号)

スパシフィラムの姿は清らかな白。同じサトイモ科の水芭蕉と似ています。艶やかな緑の葉色と白のコントラストがとても美しく、花の色は白、誰もがそう間違えてしまうのは、とても小さな花が肉質の太い穂に一面に並んで咲き、穂をくるんでいる白い葉が花びらに見えてしまうからです。その大きな葉の名前は仏炎苞(ぶつえんほう)。如来様や菩薩様から放たれる光の形“仏炎”のような形をしています。原産地のコロンビアより日本に渡ってきたのは明治の末。その頃の呼び名は笹団扇(ささうちわ)。団扇として使えそうな大きな葉が、笹に似ていたからそう呼んだのでしょうか。
根茎(こんけい)を用いれば、のどの痛みや腫れを抑えることができます。
いつの時代でも、人は、病や心の苦しみによって生まれる恐怖を和らげようと祈ります。仏への祈りなくして明日が訪れることがなかったむかし、スパシフィラムが“仏炎”のようにみえたのは。全てのものに感謝し、祈りを捧げる仏様が心にすんでいたからなのか…。

サネカズラ(平成24年12月号)

生薬薬名:五味子/ゴミシ   薬用部:果実   用途:鎮咳、滋養、強壮 
赤色。黄色。秋に色づく木々の葉。その中でもひときわ鮮やかに 実る、真っ赤なサネカズラの実。野イチゴを大きくしたような、小さ な粒が集まり玉をなすそれは、光沢があり、まるでルビーのような 輝きです。サネカズラの名は、その美しい実によって、“サネ(実)” が美しい“カズラ(つる性の植物)”と名付けられたのだとか。 実だけでなく、花も素敵。夏に咲く淡いクリーム色の小さな花は、 つぼみのときは雄花と雌花の見分けがつきませんが、咲けばその 違いは一目瞭然。雌花には淡い緑色の雌しべ、雄花には赤色の雄 しべが。
別名、美男葛(ビナンカズラ)。枝を潰し、水に浸けておくと、 ねばねばした液が出てきます。むかしの男たちは、それを髪を整える 整髪料としたのです。 青々と剃り上げた月代。艶やかに撫で つけられた黒髪。びしっと決まった横顔 には、戦いに挑む男たちの覚悟が見え ます。

カンアオイ(平成24年11月号)

カンアオイの葉はいつも青々として。真冬の寒さでも葉色は変わりません。そこに由来してついたのが「寒葵(かんあおい)」という美しい名前。原産地は東アジア、ヨーロッパ、北アメリカ。日本では鑑賞を目的に、江戸時代から栽培されている古典植物の一つです。草丈は高くならず、節の多い茎が地表を這うように伸びていき、大きな葉の付け根に1、2輪。地面すれすれに咲くこの花は、先端が3つに裂けた壷のような形をしています。
くすりとして用いられるのは根茎と根。生薬の名を土細辛(どさいしん)といい、咳止めや痛み止めなどに処方されます。空を仰ぎ見ようと背を伸ばすでもなく、頑なにその場所を守るようにして、半ば地にうずもれて花を咲かせるカンアオイ。その姿はまるでだれにも見つからないように…。華やかな花ではないのに、この紫色の花を見付けると、心奪われてしまうのは何故。

ヤツデ(平成24年11月号)

薬用部:葉 生薬名:八角金盤 薬効:去痰
人の手のひらのようなヤツデの葉。握手ができそうなその葉の中には、11本もの指を持つものもあるとか。大きな葉には疫病や病魔、魔物を祓う力があるといわれており、山の神である天狗はヤツデの団扇を持っています。そのため、ヤツデの別名は「天狗の羽団扇(はうちわ)」。そして今でも魔除けの縁起物として多くの家の庭に植えられています。
また、ヤツデの葉を乾燥させたものを生薬「八角金盤(ハッカクキンバン)」といい、去痰、鎮咳のくすりとして、煎じて飲んだり、うがい薬にします。
朝夕の冷え込みに体調を崩してしまいそうな11月。ヤツデの大きな手のひらで、病気をどこか遠くへ投げ捨ててほしいものですね。

ヒキオコシ(平成24年10月号)

倒れている人でも“引き起こす”ほどの力。その強力な効き目から、ついた名前がヒキオコシ。昔むかし、腹の痛みを抱えた旅人に、弘法大使(こうぼうだいし/空海のこと)が与えたのがヒキオコシの搾り汁。それを飲めば、たちどころに痛みは治まったという。
四国八十八ヶ所を巡るお遍路さん、関所越えする旅人たちもヒキオコシの力を頼りにしていたようです。生薬名は延命草。胃腸の痛み、消化不良、食欲不振を和らげてくれます。秋が深まり始める頃。丈高く、まっすぐに伸びた茎に、薄紫色の小花がふわり。可憐なその姿に反して、味はものすごく苦くて。その苦さに弱った人でもたまらず起き出し、走り回るのが名前の由来なんてことは?姿はかすみ草のようだけれども、儚さはなく、感じるのは内に秘めたたくましさ。真夏の暑さはもちろん、寒さにも耐えることのできるこの薬草。倒れたとしても起き上がる力があるから、他の誰かを救えるのだと…。

カキノキ(平成24年10月号)

生薬名:柿蔕・柿葉  薬用部:ヘタ・葉  用途:血圧降下作用、止血、鎮咳 
肌を焦がす夏風から、心地よい秋風へ。秋においしい果実の一つ、カキも青かった実がいつの間にか色づき、食べごろを迎えます。
「桃栗三年柿八年」ということわざの通り、カキが実を結ぶまでにかかる時間は8年。ゆっくりと成長し、6月に咲いた小さな黄色を帯びた白色の花の後には、ふっくらとした実。カキの種類は1000ほどあるとか、しかしそのほとんどは渋柿。あのおいしい甘ガキはほんの一部です。
くすりとしての効果は葉に血管を強くする作用や止血作用、熟した果実のヘタは柿蔕(シテイ)と呼ばれる生薬で、しゃっくりを鎮めることができます。しゃりっとした歯ごたえと甘みにもう一つ、と手が伸びてしまいますが、食べ過ぎると体を冷やしてしまうとか…。
少しだけ、を味わって食べた方がよさそうですよ。

オケラ(平成24年9月号)

日当たりのよい山麓に見かけることができるオケラ。昔は「山でうまいものはオケラにトトキ(釣鐘人参のこと)」とうたわれていたほど。そのくらい庶民の暮らしに溶け込んだ野草だったようです。
しかし、今では、オケラを知る人の方が少なくなったような。白い花を咲かせるのが9月から10月にかけて。根茎に整腸、利尿の作用があり、生薬名はビャクジュツ。
一年の健康を祈って元旦に飲むおとそにも配合されています。ビャクジュツは苦く、香りも心地よいとは言えませんが、むしろその“苦々しさ”がからだや心に効き目をもたらしてくれるのでは。
京都の八坂神社では、大晦日から元旦にかけ、白朮祭(おけらさい)が行われます。祭りでは、オケラが焚かれ、その煙を浴びれば災い除けになるのだと。白朮火(おけらび)とよばれるその火を火縄に移す参拝者もいます。消えぬように持ち帰った白朮火で、神棚を灯したり、雑煮を作ったりして、一年の無病息災を願います。燃え残った火縄を台所に飾れば、火除けのお守りになるそうです。
どれほどの人が、さまざまな民間伝承を受け継ぎ、次の時代へと渡して行くでしょうか。時が巡るたび、そんなことを考えてしまいます。

ナスタチウム(平成24年9月号)

利用部:葉・花・果実 利用法:食用・薬用(気管支炎など)
黄、橙、朱などの鮮やかな色の花と、蓮の葉によく似た丸い形の葉をしたナスタチウム。その姿から、金蓮花(キンレンカ)という別名も持っています。5月ごろから秋の深まる10月ごろまで可愛らしい花を見せてくれますが、8月の間は夏休み。夏の暑い時期は花は咲くのをやめ、丸い葉だけが青々と茂ります。でも、暑さも和らぐ9月からは元気モリモリ。たくさんの花が再び咲き始めます。
見た目に美しいだけでなく、葉、花、果実は食用になり、口に入れるとワサビのような味わい。葉や花は生のままを刻んでサラダに、パンにはさんでサンドイッチに。果実は酢漬けにしてピクルスに。そしてくすりとしても。ナスタチウムは腸内細菌を傷つけることのない“自然の抗生物質”とも言われ、気管支炎などに用いられます。ぴりっと辛い味わいですが、とてもやさしいハーブなのです。

サジオモダカ(平成24年8月号)

葉の形が匙(さじ)のよう。いや、人の顔にも見えるような。それがサジオモダカ(匙面高)と名付けられた理由です。
水田の畦(あぜ)、河川の浅瀬などで見かける植物で、特徴は大きな葉っぱ。しゃもじほどの大きさをしています。
日本で自生しているのは北日本のみ。
サジオモダカから採取できる生薬、沢瀉(たくしゃ:茎が肥大化して球状になったもの)は、頭痛、めまい、尿の出が悪いときなどに処方されます。
昼に咲き、夕方には閉じる小さな白い花。明日を知らない一日花。水から離れられず、それでいて流れに抗うこともできず。同じ水辺で再び咲くとは限らず、どこか哀しげで…。
小舟のような大きな葉で、すくいたいのは我が身なのでは。せせらぎを聞きながら、サジオモダカにそう問うてみる―。

クズ(平成24年8月号)

生薬名:葛根 薬用部:根  用途:解熱・花粉症・腸炎など
夏真っ盛り。ぎらぎらとまぶしい太陽のもとでも力強く蔓を伸ばすクズ。その根からとられるでんぷんを精製したものが葛粉です。これに水と砂糖を加え、加熱すれば、まるで魔法をかけたように、色は白から透明に。ぷるぷると柔らかく、氷のように透明な葛餅のできあがりです。
同じくこの根は「葛根(かっこん)」という名の生薬でもあり、かぜの引き始めに飲む「葛根湯」の主成分でもあります。このくすりを題材にした落語が「葛根湯医者」。どんな病気の患者にも葛根湯しか処方しない藪医者が、付添いの人にまで葛根湯を出したという話。葛根湯の効能は、くしゃみや鼻水などのかぜ、発汗、解熱、頭痛、神経痛、肩こりに筋肉痛など。実はこの医者、藪医者ではないのでは?病に伏せた人はもちろん、付き添いの人に潜む病を見つけていた…なんて。

エンジュ(平成24年7月号)

鮮やかな黄緑色の葉は、広げた羽のように茂り。その葉を覆いつくすように咲く、淡い黄色のエンジュの花。
まるで粉雪が降り積もったようでとても綺麗。
“延寿”という感じをあてることができるため、庭に植えることで邪気を払い、寿命を延ばせるという謂れがあります。くすりとして用いられてきた歴史も古く、つぼみを乾かしたものが槐花(かいか)、槐米(かいべい)という名の生薬。種子は槐角(かいかく)、葉は槐葉(かいよう)、根を槐根(かいこん)といい、病や傷にあわせて処方します。つぼみに含まれているルチンという成分には血管を強くする作用があり、血便や痔の出血を止めるほか、動脈硬化、高血圧などの生活習慣病の予防にも効果があるとされています。
蜩(ひぐらし)の声が聞こえてくる頃、エンジュの下は花のじゅうたん。そばに近寄れば、美しい花色に心も染まるような…

アサガオ(平成24年7月号)

日が沈んでから約10時間。東の空に光が射し始める朝の4時。人が目覚めるよりも早く、寝坊することなく必ず目を覚ますアサガオの花。
種子は「牽牛子(けんごし)」という名の下剤、虫下しのくすり。古代中国では牛と取引されたほど高価で、その名の由来はこのくすりを手に入れるために牛を牽いてきたからとか、くすりのお礼参りに牛を牽いて行ったからなどともいわれています。しかし使用方法、使用量を誤れば嘔吐・腹痛などの症状を引き起こすこともある恐ろしいくすり。日本には奈良・平安時代頃に遣唐使が持ち帰りましたが、人々はその美しい花に心を奪われました。
とりどりの色、ぱっと丸く開いた花弁。
もうすぐやってくる夏休み。子どもたちの宿題といえばアサガオの観察。早起きをして水をやり、咲いたばかりの花を見て。太陽が高く上る頃には、アサガオのカーテンを引いた部屋でゆっくりお昼寝、とか。

アマドコロ(平成24年6月号)

浅春の雨がさらさらと。潤った原野が芽吹きの頃を迎えたら、草間にはアマドコロの姿も。硬そうな角ばった茎が、地中からひょっこり。
春から夏へ季節が移ろい始める6月ともなると、背丈は70cmほどにまで。弓なりに伸びる茎に、大きな楕円の葉。その青々とした葉のわきから花が下向きに咲いています。筒状の白い花で、花開く先端だけが淡い緑色をして。
雨の咲く頃に咲くから、アマドコロ。きっとそうに違いないと思っていたら、根が野老(ところ:山芋の一種)に似ていて、苦い野老に対してこちらは甘いからなのだとか。名前の由来は根っこにあったとは。その根は玉竹(ぎょくちく)という生薬で、滋養・強壮・老化防止などの目的で用いることができ、生の根をすりおろしたものは、打撲やねん挫に効き目があります。
夏を見ることなく、雨に溶け込むように消えて行くアマドコロ。今年もまた春の終わりを告げて…。

チャイブ(平成24年6月号)

薬用部:花・葉 薬 効:食欲増進・健胃・整腸など
細くまっすぐに立ちあがる葉。その葉をちぎって匂ってみれば、びっくすりするほどネギの香り。けれどもこれはネギではありません。
これはチャイブ。セイヨウアサツキ、エゾネギなどとも呼ばれるハーブです。5月中ごろから7月に藤色の可愛らしい花を咲かせますが、その花もぼさぼさ頭のネギ坊主にそっくり。
チャイブはネギと同じで主に食用。葉は薬味、花はサラダに、その香りが食欲を促し、胃腸の働きをよくしてくれます。紀元前1000年以上前の中国では、既にチャイブを使った魚料理が作られており、そのレシピは今も残されています。 お庭の隅や鉢植えでも。チャイブを育ててみませんか。
長雨が続くこの季節にぽんぽんと咲いた丸い花を楽しんで、それから味わって…。

ムベ(平成24年5月号)

甘い香りに誘われるまま、鼻先に見つけたのは可憐なムベの花。小さな白百合のような花を咲かせるムベには、こんな故事が。
天地天皇は近江八幡へ行幸(ぎょうこう:天皇がお出かけになること)中、農家へお立ち寄りに。そこで出会った老夫婦にたずねた長寿の秘訣。二人の答えは、この地で採れる“紅紫色の実(紅紫:こうし・べにむらさき)”を食べているからだと。それを聞き、天智天皇は“むべなるかな”。
近江八幡で古くよりこの実が食されていたのは、滋養強壮の効果を求めてのこと。苞苴(おおむべ:神や朝廷に献上する土地の産物・貢物)であったことから“ムベ”と呼ばれるように。皇室への献上は、昭和後期(1980年頃)まで続いていたようです。
果実はアケビとよく似ています。卵よりやや大きく、秋に熟すと紅紫色に。茎や根は野木瓜(やもっか)という生薬で、強心、利尿の効き目があります。
蔓を伸ばし、大きくなり。花を咲かせ、実を結び。たくさんの種を残すムベを人は“長寿の木”と。
空を掴もうと、伸びる姿を見ては“宜(むべ)なるかな”。

ニゲラ(平成24年5月号)

薬用部:種子 用 途:利尿
細い糸のような葉。その葉に包まれて咲く、紫や白のニゲラの花。細い葉が霧に見立てられ、別名「霧の中の恋人」とも呼ばれているロマンチックな花です。 ヨーロッパ南部が原産で、日本には江戸時代末期に伝わりました。花が終わると、風船のようにまるく膨らんだ実ができ、熟して裂けると、中からメロンのように甘い香りを漂わせる黒い種子が出てきます。この種子は利尿や腸炎などのくすりとして使われるほか、お菓子の香りづけにすることも。ただし、全草には毒が含まれるので、茎や葉、可愛らしい花を口にすることはできません。
ニゲラは日当たりがよく、水はけがよければ土質を選ばずに育ちます。気付かないうちに、お庭のそこかしこでニゲラがすくすく、なんてことも。
細い葉と薄い花びら。でもどこかとげとげしい印象を持つ、ニゲラ。でもそれは、触れれば壊れてしまいそうな、心やさしい恋人なのです。